俺たちの仕事

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俺たちの仕事

「ねぇ、新しい仕事ってどんな事してるの?」 「キッチンカーでホットドックとか売ってる」 「先生が作ってるの?」 「そう」 隣に座る隼人はずっと俺の方を見てるけど、なんか目を合わせるのが恥ずかしくて、携帯をいじりながら話を聞く。 何故か俺に興味津々の隼人は次々と質問を繰り出してくるから、無言にならずに済んで俺的には助かっている。 「で、将吾は何するの?」 「えっと…お手伝い?」 「ほぉ、将吾は作らないの?」 「俺が!?出来ると思う?」 「できるよ、今作ってるじゃん!」 りつとの仕事で俺ができることは… 正直言ってあまりない。 料理ができるわけでも運転ができる訳でもないので、本当に雑用中の雑用しかできないのだ。 運転免許は今絶賛通い中! 確かに、一緒に働く上で俺じゃなきゃできないこと、りつの右腕に慣れるようなことが俺にも欲しいなぁとは思っていた。 「あぁ、これも売れるかな?」 「いいんじゃない?可愛くラッピングしたら女子ウケ良いかもよ?」 「家でもできる?」 「もちろん!オーブンくらい家にあるだろ?」 「…ないかも」 「レンジは?今どきオーブンの機能もついてるだろ…」 「ついてるかもだけどわかんねぇよ」 「帰ったら調べてみなよ」 「うん…わかった!」 自分で作ったお菓子を売るなんて考えた事もなかった。 そもそも隼人だって、てっきり料理の道に進んだのかと思ってたらスイーツ男子だもんな、びっくりだよ。 俺にもちゃんとできるかな… そんな話をしてたら時間なんてあっという間で、次は冷蔵庫で冷やし固めた生地を出して型で抜いていく作業に入った。 「意外とムズくね」 「ちょっとずらすといいよ?」 「ん…おっ、取れた!」 「そうそう!いい感じ!」 何かだんだん楽しくなってきて、これなら俺もできるかもってちょっと自信がついてきた。 そして色んな型がズラーっと並んだ生地がオーブンに入れられ、いよいよ焼いていく。 その間に俺は手順や材料、アレンジなんかのやり方も聞いてしっかり携帯にメモした。 「熱心だね」 「やるからにはいいもの作りたいじゃんっ」 「出来たら俺にも試食させて?」 「当たり前じゃんっ!1番に食べてもらうよ?」 そして部屋中に甘くて香ばしい匂いが漂い始めると、美味しそうなクッキーが焼きあがった。 そして少し冷ましてからの試食タイム… 「やばいっ、めっちゃ美味そう!」 「俺が作ったんだから美味くないと困る」 「ふふっ、そうだな」 「じゃあどうぞ、お先に召し上がれ」 ハート型のクッキーを一つ手に取り口に運ぶと、サクふわのなんとも言えない食感と、甘くて香ばしい香りが口の中に広がった。 「うんまっ!!今まで食べたクッキーの中で一番美味い!」 「大袈裟だなぁ、あんま目開くと目ん玉飛び出ちゃうよ?」 「俺これ全部食べちゃおうかな…」 「先生にあげるんだろ?」 「りつ…喜んでくれるかな?」 「泣いて喜ぶんじゃない?」 「ふはっ!ありえるっ」 そしてりつの泣き顔を想像して二人で大爆笑すると、なんだかあの頃に戻れたような気がして嬉しかった。 こんな風にまた隼人と同じ時間を過ごせるなんて、思ってもみなかったから――― 「色々ありがとな」 「ううん、こちらこそ!また新作出来たら食べてよ」 「もちろん!でもその前に俺のクッキーの試食会だな!」 「おぉっ、楽しみにしてるよ」 「隼人…これからもよろしくな?」 「何だよ…改まって…」 「言いたかっただけ…」 「なぁ将吾…抱きしめてもいい?」 「えっ、なん…っ/////」 俺の返事なんか聞きもしない隼人包み込まれると、ふわっと甘ぁい香りがした… 「こちらこそ、ありがとう」 そんな隼人の暖かい言葉と温もりに、少しだけキュンってした事はりつには絶対に内緒にしておこう…
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