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最終話 愛してるじゃ足りないくらい
クッキー作りを始めてからというもの、隼人がお菓子作りの指導をしてくれるようになって、りつが度々ヤキモチをやいている。
だけどりつだってたまに健太に手伝わせたりして、楽しそうにやってるからお互い様だろ。
なんてったって、隼人と昔みたいにいられる時間が楽しいし凄い嬉しい。
だけどそれは、帰ればいつだっておかえりって言って受け止めてくれるりつがいるからこそ成立する楽しみ。
そしてまた新しい週が始まると、朝から二人で準備してキッチンカーで出かける。
こんなに幸せでいいんだろうか…
・・・・・
今日は日曜日。
試しに休日の販売もしてみようかと、前から予定していた場所に、キッチンカーを止めて販売を始める。
すると、なんかどっかで聞いた事のあるようなうるさい声が、こちらにだんだん近づいてきた。
「ねぇっ!こんなとこにキッチンカーあるっ!俺これ食べたい」
「ねぇ…また食べるの?」
「えーだって美味しそうじゃんっ!…ほらっ!タピオカあるよ?」
「あ…ほんとだっ」
「ねぇいいじゃんっ!食べようよぉ…」
「うーん…わかった!んじゃ食べよっ」
「すいませーんっ!」
後ろを向いて作業していた俺らは、その声と共に振り返るとお互いに顔を見合せ驚いた。
「「いらっしゃいま…あっ!」」
「「あーーーっ!!」」
「えっ、陽介!?お前、湊か!?」
だいぶ大人っぽくはなってるけど、その二人は高校の時の同級生の陽介と湊だった。
「加野先生じゃんっ!なにやってんの!?」
「何って見ての通り…てか、お前らまだ付き合ってたのか!?」
「うんっ!だって俺らラブラブだもーん♡」
「おい、湊っ…////」
湊が陽介の腕に絡みつくと、陽介は恥ずかしそうに顔を赤らめた。
そっか、こいつら高校の時からずっと付き合ってたんだ…
なんか羨ましいなぁ…なんて少し嫉妬しながらりつの顔をちらっと見れば、りつの穏やかな微笑みの中にも、少しだけ申し訳なさそうな…そんな表情が伺えた。
「てかお前…将吾か?」
「お…おぅ…」
「えーっ!あの将吾!?めっちゃカッコ良くなってるじゃんっ!」
「おいっ、湊っ…」
陽介とばっちり目があって確認されると、陽介を遮って湊が距離を縮めてくるから、今度はそれを遮るように陽介が湊を動きを封じ込めた。
本当に仲がいいんだな…
たまたまお客さんがいなかったから良かったものの、店の前でイチャイチャガヤガヤ騒がしすぎる。
陽介は背が高くてかっこいいし、湊はちっちゃくて可愛いらしいからセットになってると余計に目立つし、賑やかな所も昔と変わらなすぎてなんだか少し嬉しくなった。
それにしても、俺ってそんなに変わったかな?
自分では自覚ないんだけど。
「ん?てことはお前らだって…先生がいなくなった後も二人は続いてたって事?」
「そーじゃんっ!卒業してから付き合ったの?」
期待に満ち溢れた二人の視線がちょっと気まずくてりつと目を合わせると、りつも同じような顔しててなんだか昔のことを思い出してしまった。
「ううん、あん時はもう…二度と合わないと思ってたな…」
「あぁ…そうだなぁ…」
ほんと…卒業してから今まで色々あった。
あの時の俺が今の俺を見たらびっくりするだろうな…
安心しろよ、高校ん時の俺。
お前は独りなんかじゃねぇよ…
「えー!?じゃあなんで?何があったの!?」
「色々あったよな?」
「うん、話すと長くなる…」
「どうせ暇なんでしょ?聞きたい聞きたい〜!!」
「暇じゃねぇーよ!見てわかんだろ?俺ら今、仕事中!!」
「えー!ねぇいいじゃーんっ!教えてよぉ」
子供のように飛び跳ねてはしゃぎ出す湊を、保護者のように宥める陽介。
さすがにこれ以上おしゃべりを続けたら仕事に支障が出るから、俺も何とかこの場を収めようと帰るように促すが…
それでもやかましい湊に陽介もだいぶ困惑気味で、さてこの怪獣をどう落ち着けようかと思っていたその時、その様子をずっと眺めていたりつがやっと口を開いた。
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