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イケメン大学生
ここでの生活は苦でしかなくて、一日でも早くこの家から出る為には、遊んでる暇なんてなかった。
一方、幼なじみの隼人は大学に進学してキャンバスライフをエンジョイしているようだった。
全く生活のリズムが変わってしまった俺らは
、遊ぶ機会も段々少なくなっていき、今ではもうほとんど連絡も取らなくなった。
だから俺の傍にはもう親友と呼べるような友達もいなくて、人と関わるのはバイトの時とたまに飲み会に誘われる時くらい。
バイト先で知り合った人と付き合ったこともあったけど、それも長くは続かなかった。
どうせみんな俺から離れていってしまうんだ。
そんな程度の関係なら最初からいらない…
だから優しくなんてしないで欲しくて、自然と人と距離を置くようになっていった。
そして一年が経った頃、バイトで貯めたなけなしのお金でやっと実家から離れることが出来た。
だけどそんな喜びもつかの間、掛け持ちのバイトの一つのお店が倒産した。
ギリギリの生活をしていた俺は、居酒屋のバイトだけではどうにもならず誰かに頼ることも出来なくて途方に暮れていた。
・・・・・
そんなある日の事だった…
居酒屋のバイトを終えた俺は、深夜の歓楽街を歩いていると、夜の仕事のスカウトに声をかけられた。
もちろん最初は抵抗があったけど、その待遇の良さに惹かれ、俺は背に腹は変えられずこの世界に足を踏み込んでしまったのだ。
そして自分の体で稼げることを知ってしまった俺は、バイトの他に売りにも手を出し始めた。
気持ちいい事してお金が稼げるなら好都合。
何となく寂しさから逃れられる気もして、俺はこの仕事にどっぷり浸かっていき、居酒屋とウリ専の掛け持ちで前よりは普通に生活ができるようになった。
そして最近、俺が上がる数時間前に入ってくる一際目立つ大学生のイケメンバイトが、やたらと俺に絡んでくるようになったのだ。
「夏川さん!今日ってこの後なんかあります?」
「え?何で?」
「俺、今日たまたま早上がりなんでこの後飲みに行きません?」
「飲みに…?…や、俺用事あるから」
「彼女さんとか…ですか?」
「いや、そうじゃないけど…」
「そうですか…残念です…」
あからさまに残念そうに眉を下げて落ち込む彼…
実は俺…彼の名前さえまだ知らなくて、とりあえず名札を確認してみたのだが…
【大海原】
なんて読むんだ??おおうなばら??
読み方さえ分からない…
「暇なら働いてけば?」
「いや、今日暇だから帰っていいって言われちゃって…」
「ふーん。じゃあ遊んでばっかいないで勉強しろ、大学生」
「遊んでばっかじゃないですよっ」
「ふふっ…そっか。じゃ、お疲れ」
「あっ、ちょっ…夏川さんっ!」
大学生なんて遊ぶことしか考えてないようなお気楽なバイトと、何が楽しくて飲みになんか行かなきゃなんないのか。
金にならない事は基本したくない。
にしても、俺にわざわざ絡んでくる奴なんてそうそういなかったから、ちょっとビックリした。
他に友達なんて腐るほどいるだろうに、多分かなり変り物なんだろうと思う…
だけどなんとなく気に入られてるって言うのは悪い気はしなくて、ちょっぴり優越感に浸りながら次のバイト先に向かった。
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