彼の家

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彼の家

「お邪魔します…」 「服持ってくるので、上がって待ってて下さい」 「…うん」 なんか口車に乗せられて連れてこられた感が半端ないし、二人っきりという空間に少し緊張する。 一人暮らしにしては綺麗に片付けられた部屋を眺めれば、本棚にはかなりの量の本が並べられていて本好きな事が伺える。 一つ手に取ってみれば、なんだか難しそうな本で俺にはよく分からないけど、部屋の雰囲気的にはまぁ、好きな感じだ。 「すいません、こんなんでいいですか?」 「あぁ、なんかごめん…」 「いいえ、俺のせいだから。気にしないで下さい」 何だか後輩だからとはいえ、同じ歳くらいのやつにいちいち敬語を使われる事に煩わしさを感じる。 そもそも歳も名前すらまだちゃんと知らないことに気がつけば、さすがに家にまで上がっておいて、名前も知らないって訳にもいかないだろうと、彼に質問を投げかけた。 「あの、さ?」 「はいっ」 「お前、歳いくつなの?」 「あっ、俺は19です。もうすぐ二十歳になります。夏川くんは俺の1個上ですよね?」 「あぁ、うん。その…敬語?いいから、普通に話して?」 「や、でも先輩ですし…っ」 こういうタイプはお願いしたって止めそうもないから…まぁ、慣れるしかないか。 「あと、今更なんだけどさ…」 「はいっ、なんですか?」 「名前…なんて読むの?」 「あれ?名前言ってなかったでしたっけ!?わたのはら、わたのはらしんって言いますっ!」 「あれで、わたのはらって読むんだ…」 嬉しそうに表情を緩ませながら、まだ何か聞いて欲しそうに俺の出方を待っている… こいつは遊んでもらう前の犬かなんかなのか? 「本…読むの好きなの?」 「はいっ、読んでると落ち着くんですよね。ふふっ…てか、夏川くんから俺に沢山質問してくれるなんてめっちゃ嬉しい!」 「そうかよ…////」 あぁ、これ…この無邪気な笑顔… こいつ誰にでもこういう顔すんのかな? 無意識でやってるのか、俺の事がそんなに気に入ったのか… そもそも彼はこっち側の人間なのか…? 色んな疑問が頭をよぎるけど、どっちにしたって俺は受け入れられない。 こういう感情はもう持ちたくないんだ。 「あの…」 「ん?」 「着替えないんですか?」 「あ、うん」 男同志だし特に気にもせず、そのままシャツを脱いで着替えていると、またこいつは意味深な言葉を吐いてくる。 「夏川くんって身体も綺麗なんですね…」 「なっ、なに!?」 思わず自分に伸びてきた手を払い退けて大きな声を出してしまうと、感情が高ぶりそうになり慌てて冷静を装う。 何かこいつと一緒にいると自分のペースが乱れる… さっさと着替えてこの部屋を出ようと、そう心に決めた。
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