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最終話 一緒に
「将吾…っ」
息を切らし腹を押さえながらゆっくりと俺に近づいてくるりつはどっからどう見ても絶対に無理してて、俺は思わず駆け寄って人目もはばからずりつを抱きしめた。
「…っ、将吾…?どうした?泣いてんの?」
「ごめん…りつ…っ」
「……そんなに心との別れが辛かった…?」
「…っ、違う…っ、りつのせい…っ」
「え…?」
「りつが…っ、りつが迎えに来てくれたから…っ、無理させちゃったから…っ」
「あぁ、だってさ…?無理してでも、引き止めたかったから。今日は絶対ね…」
「えっ…」
「将吾が行くって言ったら、俺引き止めたよ…まぁ、ちょっと遅れちゃったけど…」
「りつ…」
「俺、考えたの。自分で着いて行ってもいいみたいなこと言ったけどさ、もし将吾が本当に心に着いていくって言いだしたら…諦められるか?って…諦められるわけねぇじゃん、そんなの。やっぱ俺さ、心より全然ダメだけどさ、でもそれでも将吾の事好きだから…行かせたくないって、今度こそ俺がお前を幸せにするって思ったから」
俺の欲しかった言葉全部言ってくれた…
りつが俺に好きだって、幸せにするって…っ。
何度も聞いたことある言葉かもしれないけど、何度聞いたって嬉しいし今一番言って欲しかった言葉。
「りつは…っ、俺が必要…?」
「うん、必要」
「ほんとに?」
「嘘ついてどうすんのよ…」
「じゃあ俺の事…っ、ほんとに好き…っ?」
「おぅ、マジで大好き」
「ずっと…っ、一緒にいてくれる…っ?」
「もちろん、死ぬまでずっと一緒にいる」
「違ぅ…」
「え?」
「死ぬ時も一緒だから…っ、勝手に死ぬな…っ」
「ふふっ…そうだったな…」
お前が死ぬ時は俺も死ぬ時なんだからなっ。
そう思って抱きしめる力を強めると、りつの身体に少し熱を感じて慌てて顔を覗きこめば顔色は悪いし尋常じゃない汗の量だし段々と息が上がってきててもう一度しっかりと抱き抱えた。
「りつ!?どっか痛いの!?」
「いや…っ、まだ体力的にキツイかも…」
「ちょっと休んだ方がいいよ…っ」
「うん…そうかもな…」
少し軽くなったりつの身体を支えながらとりあえず近くのベンチに座らせると、自販機で水を買ってきてとりあえず飲ませる。
どうしてあげたらいいのか分からなくてパニックになる俺に、りつは大丈夫だからと逆に俺をなだめてくれた。
大丈夫なわけないのに、絶対辛いはずなのに…
「りつ…」
「ん?」
「沢山振り回してごめんね…」
「いや、俺こそ…不安にさせてばっかでごめん、でももう絶対…何があっても離さないから」
「俺も…ずっとここにいる」
「ん…もうどこにも行かないで…」
俺の肩に寄りかかりながら目を閉じたりつの長いまつ毛を伝って一粒涙が頬を伝った。
鼻をすすりながら身体を震わせ俺にしがみつくりつ…
年上の大人の先生だと思ってたこの人が、今日はなんだか凄く繊細で弱々しく見えて、これからは大事にされるだけじゃなく大事にしなきゃって心の底から思った。
「…もう平気だから、そろそろ帰ろうか」
「うん…でも…っ」
さっきよりは汗も引いて呼吸も落ち着いてはきたものの、まだ身体は暑いままだしここまで車できたってから運転だって心配だ。
俺が変わりに運転出来れば良かったのに、俺免許持ってないんだよな…
まずは免許、りつのために絶対取ろうって決めた瞬間だった。
「なぁ…将吾…?」
「ん?」
「帰ってくるんだろ?」
「ぅ…でも俺、りつの世話になってばっかで…」
「んな事気にすんなよ…」
「んぅ…」
「じゃあさ、これからは家賃折半な?半分払ってくれる?」
「あ…っ、うんっ!」
「ふふっ、じゃあ決まりな」
りつとの間に色々あって、更に心と一緒に過ごしてわかったことがある。
もうちょっとだけ、他人を信じてみてもいいかなって。
0か100じゃなくて半分こ、頼るだけでも頼らない訳でも無く、俺は好きな人と平等に一緒に幸せになりたいんだ。
それに、こんなに俺の事好きなやつ他のどこ探したってもういないと思う。
「じゃ、帰るか」
「うん////」
そして遠回りに遠回りを重ねた俺らの新生活が、ついにここから始まる…
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