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将吾の心境
ずっと分からなかったんだ…
だけど俺に受け入れる勇気がなかったから、ずっと聞きたくても聞けなかった。
再会を果たしたあの日…
俺を拾ってくれたお前は、俺に好きだって言ってくれた。
なのに俺は、りつのことが信用しきれなくて、優しくしてくれる心に甘えて、関係を曖昧にしてずっと自分の気持ちから逃げたまま、お前と離れる事を選んだんだ。
りつがベットから起き上がると俺も釣られて起き上がり、まともに顔も見れなくて俯いたまま、その場にぺたっと座った。
「初めて将吾の事意識したの、多分お前が入院した頃だな…」
「えっ…」
本気で驚いた…
だって、俺も一緒だったから。
それにりつがあの頃から意識してただなんて、正直信じられなかった。
あの頃、俺の体調が心配だからって言って、毎日保健室に来いって言われて…
でも俺はそれが嬉しくて。
つまんない日々を送ってた俺に、一つ楽しみができたんだ。
真っ白でひんやりしたりつの掌が、おでこに触れる度にドキドキした…
けど、お前は俺じゃない誰かのことばっかり見てると思ってた。
動揺して余計顔も見れない俺のおでこに、例の如くひんやりとしたりつの手が触れると、驚いたと同時にあの頃を思い出してドキッと心臓が跳ねた。
「体調管理なんて言って…本当は将吾に会いたかったの。でもさ?俺先生だったじゃん?あんなんでも一応。だから将吾だけ贔屓する訳にいかなかったの、表向きな?」
りつは…俺が思うよりずっとずっと、俺の事を思ってくれてた…
けど、じゃあでもなんでっ…!?
なんで俺の前から姿を消したの!?
その思いだけがじわじわと込み上げてくる。
「だから初めての日な?将吾からしてくれって言われた時、俺マジで嬉しくて… 離したくねぇって思った。でもさ?お前は普通の高校生だし、好きだからこそ普通に恋愛して、普通に高校生して、普通に卒業して欲しかったの…」
「…っ、普通ってなんだよ…っ!」
「うん、そうだよな…。でもあん時の俺は、それがお前にとって一番良いって思ってたから…。でもさ、どんどん好きになっちゃって、そんであの事故があって…もう無理だ、これで終わりにしようって思ったの…」
「勝手過ぎっ!俺、お前の事ずっと好きだって言ってたよな?」
「うん…でも俺なんか好きになったっていい事ないし、お前には隼人もいただろ?」
「隼人はそんなんじゃないっ!そんなんじゃなかった…っ」
今はこんなに満たされてるのに、あの頃の事を思い出すと辛くて悲しくて、自然と涙が零れた。
お前が荷物をまとめて保健室からいなくなった日から、電話も繋がらなくなった。
卒業式が終わって隼人と帰る途中、俺は少しの可能性にかけてお前の家にも行ったんだ。
けど…既にそこに、お前はいなかった―――
「将吾…っ、どうした…?」
「卒業したら、受け入れてくれると思ってた…っ。なのに…なのにお前…っ、だから俺っ…信用しきれなかった…っ。お前が…っ俺の事どう思ってるのか…っ、だからっ…」
こうなってしまうともう感情がぐちゃぐちゃになって涙は止まらないし、思い出したくもないことまで蘇ってきて、今こうやって向き合ってるりつでさえ、本当に俺の事を思ってくれてるのか不安になってきてしまう…
「ごめん…ごめんな。全部俺が悪い…俺がちゃんとお前と向き合わなかったから…。でも信じて?本当に、本気で好きだった。ずっと…今も…俺にはお前しかいない…っ」
ぎゅーっと抱きしめられると、ぐちゃぐちゃになった感情が少しずつ落ち着いてくる…
りつの温もり…匂い…全部…
俺の安心材料なんだ…
「もうっ…絶対離すな…っ」
「当たり前だろっ、離してくれって言っても離さねぇよ」
「今もっ、今も俺の事…っ、ちゃんと好き…?」
「ばーか。好きなんかじゃねぇわ」
「んぇっ!?なんでっ…」
「好きなんかでおさまんねぇって言ってんの…」
「りつ…?」
「愛してる…」
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