【殺人動機・考察編】

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【殺人動機・考察編】

 県内の大学に通い初めてもうすぐ一年が経とうというある日、俺は街で不思議な店を見つけた。  油っこい暖簾の中華屋、ハンコを扱うタバコ屋、学生服のマネキンがショーウィンドウに立つ用品店が軒を連ねる界隈より、少し離れた場所にそれはある。  もし店名が(イタリア)語で、軒先のイーゼルにモーニングやコーヒー豆の種類が書かれていれば、隠れ家的喫茶店に見えただろう。でもそこにあったのは、そんなお洒落めいたものではなかった。  年季の入る格子窓は厚ぼったくて曇り気味だし、そこから見える店内は明るいとは言えず人気(ひとけ)はない。六芒星のステンドグラスが嵌め込まれた渋い木製扉には営業中の札がかかっていて店であることは分かるのだが、それ以上の情報源は無かった。極め付けは標札に書かれた『シュレディンガーの館』だ。この奇天烈さに俺は思わず興味を持ってしまったのである。  非日常に通ずる何かを期待していたのかもしれない。未知への好奇心が、重い扉を押し開けたのだ。その後に、彼女の初めてとなる告白を受けるとは知るべくもなく――  店へ通い始めてとうとう半年を超えたその日は、胸のざわつきと裏腹に秋らしい清々しさが吹き抜ける日だった。  ベルのチリンという音とともに見えてくるのは古書店のような内装。仄かな照度の店内は古臭い間取りだ。
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