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「昔からこうなんだ。なぜか三年記念日前日に事件が起きて、その日のうちに別れるの」
彼女は俯いたまま小声で話し続ける。
僕も同じように俯いて静かに彼女の話を聞いた。バスジャック犯が「全員下を向いて動くな」と言うからだ。
「一人目の彼氏はデート先の動物園で動物が大脱走。キリンに蹴られて骨折した」
「痛そう」
「二人目の彼氏は泊まってたホテルが炎上。命は無事だったけど荷物が全部燃えた」
「泣きそう」
「三人目の彼氏は」
「モテモテだね?」
呪いの凄まじさはわかった。それに他の男の話はもういい。
てか僕を含めてざっと十二年も彼氏いるけど女子ってこれが普通なの?
「だから今回も心配だったんだ。何か起こるんじゃないかって」
そしてその予感は的中したようだ。
温泉地へ向かっていた高速バスに黒マスクをつけた武装した男が三人乗り込んできて占拠された。
座席から伝わる振動で、バスは動き続けていることがわかる。交通量の少ない山道とはいえ乗客を大勢乗せたバスが止まっていれば目立つからだろう。
「だから朝から元気なかったんだね」
「うん。なんなら記念日に温泉旅行を提案されたときから怪しいなって思ってた」
「言ってくれればいいのに」
「笑わないって神に誓える?」
「神様は信じないタイプなんだ」
そのとき不意に頭上から「おい、お前らうるさいぞ」と太い声が聞こえた。目線を上げるとバスジャック犯の一人がマスク越しに僕を睨みつけている。
その目が、僕の隣に移った。
「お、そこの女、美人じゃねえか。こっちに来いよ。特等席を用意してるぜ」
男の下卑た笑い声に、明日実は膝の上で握り締めた拳をびくっと震わせた。彼女は本当にモテモテのようだ。
でも。
「すいません」
隣で俯いたままの明日実に伸びる、男の太い腕を僕は掴む。
他の男の話はもういい。
「今は僕の彼女なんで」
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