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***  ガラスの割れる音が車内に響いた。短い悲鳴が上がる。  それとほぼ同時に、三人の黒い覆面姿の男がバスの外に投げ出された。  バスの中央に立ったまま僕はひとつ息をつき、明日実を見る。彼女は目を見開いていた。 「え、修人くん強すぎない?」 「デート中にヤンキーに絡まれたときのために身体鍛えておいてよかったよ」 「そんなの初めて聞いたんだけど」 「今までデートでヤンキーに絡まれたことなかったもんね」  わっと車内で歓声が上がる。拍手をしている客もいた。みんな不安だったのだろう。  しかしそこで車体が大きな衝撃を受け、強く揺れた。歓声は悲鳴に変わり僕は体勢を崩さないよう座席を掴む。  窓から外を見ると、二台の黒い車がバスの両側面を挟むようにぶつかってきていた。さっきの男たちに仲間がいたのか。  まだ彼女の呪いは続いているらしい。 「運転手さん、カーチェイスの経験は?」 「そんなのやったことないですよ!」 「じゃあ僕が代わります」  僕は運転席に座りハンドルを握った。運転手はすぐ後ろの空いている席に座る。  彼がシートベルトをしたのを確認して、僕はアクセルを強く踏み込んだ。二台の車を置きざりにする。 「なんで修人くんバス運転できるの?」 「大型自動車二種免許を取っておいてよかったよ」 「だからなんでそんなの持ってるのよ」 「将来家族ができたらバス借りて旅行とかするかなと思って」 「何人家族想定してるの!」  後ろのほうから飛んでくる明日実のツッコミを聞きながら、僕はハンドルを右に左に操る。  犯人グループがこんなに大胆な行動に出られるのはここが人目の少ない山道だからだ。市街地に出られればきっとやつらの攻撃も収まるはず。  ここを無事に切り抜けて、僕は彼女と温泉でゆっくりするんだ。  攻撃を躱しながら、温泉街を目指してハンドルとペダルを操作する。念のため事前に温泉街へのルートを頭に刻みつけておいてよかった。 「お前、あんま調子に乗るなよ」  かちゃ、と側頭部に硬いものが押し付けられる。見なくてもそれが何かわかった。  車内中央のバックミラーには僕の頭に拳銃を突き付ける運転手の姿が映っていた。
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