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「うおっ!」  突然の音と、全身に飛び散ってきた液体に運転手は思わず座席へと顔を向けた。  僕はその一瞬の隙を突く。  運転手の拳銃を握る腕を捻りあげて、顎に掌底を入れる。脳が揺れて運転手が白目を剥き、膝から崩れ落ちたのを確認して拳銃を取り上げた。  それから急いで運転席に戻る。 「……本当に」  アクセルを再び踏み込みながら、僕は横目でバックミラーを見た。 「本当に、あなたは命の恩人です」  バスの通路中央には明日実が立っていた。  空になったコーラのペットボトルを両手で持ったまま立ち尽くしている。僕が持ってきていたものだ。  さっきの破裂音は振られたコーラの炭酸が噴き出した音だったのか。 「君は用意周到なくせに、最後の最後で詰めが甘いんだから」  前髪からコーラを滴らせながら明日実は言った。  気丈な台詞に似合わず、肩は上下し、声は震えている。当然怖かったはずだ。拳銃を持つ男にコーラで立ち向かうなんて。  なのにどうして。と考えて、僕はようやく気付く。  彼女だって三年記念日を迎えたいのだ。  僕との関係をここで終わらせたくないと、そう思ってくれているのだ。 「恩返しがしたいんですが」  考えるより先に、僕は口を開いていた。 「良かったら一緒に温泉旅行に行きませんか?」  木々の並ぶ山道の向こうには明るい町並みが広がっている。いつの間にか後方にいたはずの二台の車は消えていた。  バックミラーに映った明日実は顔をほころばせる。 「じゃあ、一泊二食部屋食付きなら」  鏡越しに見つめる僕たちの笑い声と、乗客の大きな拍手が重なった。
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