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「あ」
「あ」
僕と明日実の声が重なる。察したように月は雲に隠れてしまう。
中途半端な位置で止まった婚約指輪を前に、今度は僕が何も言えなくなる番だった。
「ふ、ふふ」
静まり返った空気に、小さな笑い声が聞こえる。
「……本当に修人くんは、最後の最後で詰めが甘いなあ」
呆れたように笑う明日実。
僕も釣られて苦笑しながら、彼女の顔を真っすぐに見つめた。
やっぱり僕には君がいてくれなきゃ駄目だね。
「それはOKってこと?」
僕が尋ねると明日実はサイズの合わない指輪をはめたまま、左手の人差し指と親指で丸を作った。
再び雲間から顔を出した月がスポットライトのように彼女を浮かび上がらせる。
――笑いながら涙を流すその顔を、僕はきっと一生忘れないだろう。
(了)
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