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プロローグ
「じゃあ、もう良いです」
少女は2人きりの室内で呟いた。彼女の手にあるのは彼女が彼のために書いた指南書。しかし、この本が使われることはもう二度とない。目の前の彼は何を言うでもなく引き攣った笑みを浮かべたまま。
(また、無駄だった)
少女は机に置いていたケーキに目を落とす。これから苦難の道に進む彼のためにスポンジから手作りしたケーキだった。けれど、これも無価値で要らないものにたった今落ちぶれた。
誰かのために時間を割いて、考えて、つくったものを台無しにされることが耐え難い苦痛だ。不快感に耐えかねて、少女は無言でケーキを壁にぶつけた。
これは少女も自覚する自身の悪いところ。堪え性がなくて、感情的になった末に全てを台無しにしてしまうところ。
「ーーになりたかっただけなのに」
彼女の叶えられなかった願いはケーキと共に崩れてしまったのだ。耐え難い程の沈黙を越えて何人目かの交際相手は少女にこう告げた。
「俺たち、別れよう」
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