等身大の自分

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等身大の自分

 朝食後、テレビをぼうっと見ている健二に話しかけた。 「ごめん、ちょっと車出してくれないかな。買い物行きたくて」  隣町ならコンビニがあったはずだ。  一瞬きょとんとした弟は、にやりとした。 「兄ちゃん知らないでしょ、川向こうにコンビニできたんだよ」 「うっそ」 「浦島太郎ってお母さんが言ってたけどその通りだね。せっかくだから一緒に行こうか」    ジャンバーを羽織りながら、弟は機嫌が良さそうだ。 「いやー、兄ちゃんも知らないことがあるって新鮮だなぁ。ずっと勉強では適わなかったから。  劣等感感じてたんだよ、俺」 「そうなの?」  理想の大人にはなれず、仕事と家の往復、寂しい独身男の人生が今後もただ続いていくと思っていたけれど。  どうやら世界は僕が思ってたよりいろんな面を持っていて、まだ知らないことかいっぱいあるらしい。  自分が動くことで、新しい世界に触れることができるんだ。  久しぶりに帰省したり、こうやって姪っ子にお年玉をあげるために、ポチ袋を買いに行ったり。  朝露で濡れた、舗装がガタガタの歩道を弟の後について歩きながら、これから彼とする話が楽しみな、そんな正月の朝だった。
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