24人が本棚に入れています
本棚に追加
等身大の自分
朝食後、テレビをぼうっと見ている健二に話しかけた。
「ごめん、ちょっと車出してくれないかな。買い物行きたくて」
隣町ならコンビニがあったはずだ。
一瞬きょとんとした弟は、にやりとした。
「兄ちゃん知らないでしょ、川向こうにコンビニできたんだよ」
「うっそ」
「浦島太郎ってお母さんが言ってたけどその通りだね。せっかくだから一緒に行こうか」
ジャンバーを羽織りながら、弟は機嫌が良さそうだ。
「いやー、兄ちゃんも知らないことがあるって新鮮だなぁ。ずっと勉強では適わなかったから。
劣等感感じてたんだよ、俺」
「そうなの?」
理想の大人にはなれず、仕事と家の往復、寂しい独身男の人生が今後もただ続いていくと思っていたけれど。
どうやら世界は僕が思ってたよりいろんな面を持っていて、まだ知らないことかいっぱいあるらしい。
自分が動くことで、新しい世界に触れることができるんだ。
久しぶりに帰省したり、こうやって姪っ子にお年玉をあげるために、ポチ袋を買いに行ったり。
朝露で濡れた、舗装がガタガタの歩道を弟の後について歩きながら、これから彼とする話が楽しみな、そんな正月の朝だった。
最初のコメントを投稿しよう!