夢の自分、リアルの自分

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夢の自分、リアルの自分

 夢を見た。  ゴキブリを素手で潰す夢だ。  彼女が手を叩いて喜んだ。 「(けん)君、すごいじゃん!」 「これで(あや)を守れるよ」 「かっこいいー! 頼りになるー!」  降り注ぐ紙吹雪。抱きついてくる彩。彼女をお姫さま抱っこして、僕は胸を張った。  祝福するように音楽が流れてくる。  ファンファーレでも鳴ってもらいたいところなのに、なぜか電子音。  聞き覚えがある。  これは、毎朝聞く……。  そこで僕は目を覚ました。 「夢か……」  変わらないのは、アラームが鳴り続けていること。  ケータイを手探りで探し、ベッドの下に見つける。その拍子に毛布がずれた。 「さっむ!」  慌てて二度寝しようと布団に潜り込む。  独り言に応える人はいない。 「なんで、あんな夢を見たんだろう……」  寝返りをうつ。目を閉じる。  だけどさっきの夢が……厳密には、リアルの自分との差が思い出された。    僕はゴキブリを殺せない。 「かっこいい」なんて言われたこともない。  女の子を抱き上げるような筋力もない。   何より、今の僕には彼女がいない。  夢の中の彩と付き合っていたのは、大学の頃だった。  なんであんな夢を見たんだろう。  でも、彼女に抱き着かれるのは悪くなかった。  夢の続きが見れないだろうかと頑張ってみたが、二度目のアラームが鳴る。 「うう……」  いつもと曲が違う。  僕はようやく画面を見た。 『帰省! 起きろ!』  昨日の自分からのメッセージが、そこにあった。
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