第1夜「ジャック・ター」

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第1夜「ジャック・ター」

「こんばんは、ユウくん!」 「イサムちゃん、こんばんは。たきちゃんの お使いかな?」 「うん。ジャック・ターとアップルパイを お願いします」 「了解。用意するからそこで座ってて」 僕の名前はイサム。 ここ、シエスタの2軒先にあるゲイバー、 「ムーンライト」の見習いホステスだ。 僕は18歳だから、まだお店には出ていなくて、 トップホステスのたきちゃんの付き人と裏方を やっている。 まだお酒も飲めないしね。 でもお酒はすごく飲んでみたい。 それはシエスタでユウくんが美味しそうなカクテルを いっぱい作っているのを見て、そう思うようになった。 たきちゃんの好きなカクテルは 「ジャック・ター」 ラム?が入ってるのかな?? とてもいい匂いなんだけど、すごくアルコールが 強そうなカクテルだ。 「ユウくん」 「ん?なあに?」 「ジャック・ターって、作るの難しい?」 「ううん、そんなに難しくはないよ。 イサムちゃん、作ってみたいの?」 「なんか…興味があるんだよね」 「そうなんだ。じゃあ作るところを見る?」 「うん!!」 ムーンライトでもお客さんにお酒を提供するんだけど 瓶ビールとかウィスキーとか焼酎とか、そういうのが ほとんどで、カクテルは実は缶に入ったヤツを 出したりしている。(ナイショだよ) 「あんなのカクテルじゃないわよ、イサム」 たきちゃんはいつもそう言って顔をしかめるんだ。 そして、イサムがお酒を飲める日が来たら、 シエスタでユウくんに作ってもらいなさい、って 言われてる。 ユウくんは僕の憧れの人でもある。 こんな大人になりたいなあ…。 「ジャック・ターはとてもシンプルなレシピなんだ。 使うのはこの3つだよ」 ユウくんはそう言って、僕の前に2本の瓶と 生のライムを置いた。 「ゴールドラムとサザンカンフォートと ライム。ライムはライムジュースでもいいよ」 「ユウくん、サザンカンフォートってなあに?」 「これはね、ウィスキーをベースにピーチやオレンジ、 レモンとハーブを漬けて作ったリキュールなんだ。 これをソーダで割るだけでも美味しいカクテルが 出来るから、イサムちゃんはそこから飲んでみるのも おすすめかな」 「美味しそうだなあ…早く飲めるようになりたいよ」 「楽しみにしててね」 ユウくんはにっこり笑って、 シェーカーにクラッシュアイスを入れた。 「シェーカーにクラッシュアイスを入れてから カクテルの材料を入れてシェイクすると、一気に 冷たく出来るんだ」 「そうなんだ…」 シェーカーを振るユウくんは本当にカッコいい! 「グラスには氷ごと全部入れてね」 「氷も全部?」 「こうすると味が水っぽくならないからね」 「なるほど…。」 ノート、持ってくるんだった…(しまった…) 「大丈夫。イサムちゃんがノートを持ってきた時に また教えてあげるからね」 ユウくんは僕の心の声が聞こえてるんだろうか…?? 「ライムを絞る時なんだけど、スクイーザーの上で ライムを回すのはやめてね」 「え…どうしてなの?」 「回して絞るとライムの渋みが出ちゃうんだ。 だから、上から押すようにして潰してね」 「すごいね、カクテルって…」 「ん?どうしたの、イサムちゃん」 「なんだか、すごく繊細な飲み物なんだなあって…」 「それがわかるイサムちゃんなら、きっと上手に 作れるよ」 ユウくんがそう言ってくれて、 僕はますますカクテルが好きになった。 〜ジャック・ターのカクテル言葉〜 「心の仲間を求める白雪姫」
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