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第3夜「ベルモント」
そこは後輩の美玲に連れられてきた店だった。
たいしてお酒を飲まないくせに
本格的なバーカウンターとどこか居心地の良い
隠れ家のような店をなぜ美玲が知っていたのか…?
私はビアンで、最近恋人にこっぴどくフラれたばかり。
本当は家から1歩も出たくはなかったけれど、
どういうわけか、傷ついている時ほど
カラ元気が激しいのは私の悪いクセで…。
「この子がユウくん?キレイな子だね〜美玲」
ユウくんを見て、ああ…また、と思う。
どうしてノーマルな人はビアンもゲイも
トランスジェンダーも全部同じだと思うのだろう。
私の目にはユウくんがビアンじゃないことくらい
一発でわかるというのに。
ノーマルの美玲はおそらく私を元気づけようとして
同じ種類のユウくんを私に会わせようと
考えたに違いない。
もう慣れっこ…なはずなのに
小さな傷を善良な子に無意識に付けられていくのだ。
案の定私をユウくんの元に置いて
美玲はさっさと帰ってしまった。
悲しそうな目を美玲の背中に向けるユウくん…。
ここにもまた小さな傷を負わされた人が、いる。
「ユカリさんこそ、僕はタイプじゃないでしょ」
「バレたか」
あっさりとお互いのタイプがわかって
シエスタは私にとっても居心地の良い場所に
なりそうだと感じた。
そんなユウくんにカクテルをお願いしたら…
シェーカーにジンとあれは生クリーム?
それに紅色のリキュールと氷を入れて
シェーカーを鮮やかなシルエットで振る姿は
なんだか別の世界の人みたいだった。
カクテルグラスに入った
淡いピンク色のカクテルの名は
「ベルモント」
カクテル言葉は『優しい慰め』だそうだ。
「ユカリさん、けっこう傷ついている気がして…」
…ああ…君にはわかってしまうんだね…
もうカラ元気の鎧をまとわなくてもいいんだ…。
そう思えたら、涙が出そうになったけど
初めて会ったユウくんに
今のこの気持ちを吐き出すキッカケをもらえた。
(「シエスタにて」第1夜より)
〜ベルモントのカクテル言葉〜
「優しい慰め」
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