3.意中のあの子と仲良くなりたい

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「あの、この前奢ってもらってしまって……お礼ができなかったので、これ……」 「えっ、わざわざ準備してくれたの?」 「よかったら、貰ってください」  差し出された小さな紙袋には、楢崎でも知っているような、少しお高めのチョコレートの店のロゴが。  学生の彼にとって、きっと安い買い物ではなかったはず。自分のために準備してくれたのだと思うと、胸がキュンとした。彼にはいつもキュンとさせられてばかりだ。 「ありがとう、頂くよ」  そう言って袋を受け取ると、彼はホッとしたような笑顔を見せてくれた。何その顔可愛い。 「あの、中身チョコレートなんですけど、甘いもの平気ですか?」 「うん、好きだよ」 「よかった……あ、なんか、この時期にチョコって……ちょっと遅めのバレンタイン、みたいになっちゃいましたね」  照れ照れと恥ずかしそうに笑う彼に、胸がズキュンと撃ち抜かれた。今度こそ心臓が無事で済まなそうだ。誤魔化しきれなくて、服の上からぎゅっと自分の胸を抑えつけた。 「楢崎さん? 大丈夫ですか?」 「ああ、何でもないよ。大丈夫大丈夫」  何でもない風を装って、すうっと大きく深呼吸する。吸って、吐いて、吸って……よし、落ち着いた。 「バレンタインなんて言われたら、ちゃんとお返ししないとね」 「えっ、あ! そういう意味で言ったわけじゃ……!」 「あはは。大丈夫、わかってるよ」  お返し目当てじゃない、とあたふたとしている姿がまた愛らしくて、思わず笑ってしまう。 「この前楽しかったから、このお礼も兼ねてまた誘いたいんだけど……連絡先聞いてもいい?」 「はい、もちろんです」 「そっか、よかった」  ——我ながら、今のは自然に聞き出せたのでは?!  彼にはスマートな笑顔を見せつつ、内心では大きなガッツポーズをした。やっと連絡先を手に入れられたのだ。気分が舞い上がってしまうのも無理はない。 「俺、QRコード出しますね」 「あれ……どうやって読み込むんだっけ?」 「えっと……ちょっと失礼します」  楢崎のスマートフォンを覗き込むために、ぐっと平良の顔が近付いた。  ドキン、と心臓が跳ねた。  ——やばいやばい近い近い! 可愛いまつ毛長いなんかいい匂いする! 「……はい、これで完了しました」 「あ、ありがとう……」  楢崎が混乱しているうちに、平良の手によってあっという間に連絡先の交換が完了していた。やはり、こういったアプリの使い方は若者の方が詳しい。バクバクと音を立てた心臓が一向に落ち着かない。 「引き止めてしまってすみません。俺、そろそろ仕事に戻ります」 「いや、こちらこそ。話に付き合ってくれてありがとう。また連絡するね」 「はい。待ってます」  楽しい時間はあっという間で、思ったより長い時間立ち話をしていたようだ。名残惜しかったが、これ以上仕事の邪魔をするわけにもいかない。軽く挨拶をして、ジムを出た。
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