4.本気で好きになった人

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 特に渋滞にはまることなく、予定通り目的地に着いた。  楢崎が予約していたのは、少しお高めな懐石料理店。車を止めて店に入ると、黒いスーツに身を包んだスタッフがやってきた。 「いらっしゃいませ」 「予約していた楢崎です」 「楢崎様、お待ちしておりました。こちらへどうぞ」  慣れない高級店に、平良はガチガチに緊張した様子だった。可愛いな、と思いつつ、緊張をほぐすためにポンポンと背中を叩いてやる。 「そんなに緊張しなくて大丈夫だよ。ほら、行こう」 「は、はい……」  案内された席に座っても、なかなか平良の緊張は解けない。落ち着かない様子できょろきょろと店内を見回したり、飲み物のメニュー表を見たりしている。 「何か飲む? お酒でもいいよ」 「楢崎さん車なのに、俺だけ飲むのは……」 「いいのいいの、気にしないで。俺は平良くんが満足してくれたら、それでいいから」  遠慮しないで、と笑いかけると、平良はこくりと小さく頷いた。  ビールとウーロン茶で乾杯すると、コース料理が運ばれてきた。平良は前菜やスープにも美味いと感動しながら食べていた。グラスが2杯分空になることには、すっかり緊張が解けたようで、いつもの控えめで可愛い笑顔を見せてくれるようになった。少し酔ってしまったのか、ほんのり頬が赤くて、表情も普段よりふにゃふにゃとしている。その顔が見れただけでお腹いっぱいになりそうだ。  メインのステーキが運ばれてきたときなんて、わあ、と嬉しそうに声を上げていた。可愛かったので自分の分を半分あげた。 「えっ、楢崎さん、いいんですか?」 「いいよ、食べて。俺もう、お腹いっぱいになってきたし」  本当にお腹いっぱいだ。胸もいっぱい。色んな意味で。  ステーキがそんなに嬉しかったのか、ぱあっと表情が明るくなった。そしてとびっきりの笑顔を楢崎に向けた。 「楢崎さん、ありがとうございます!」  酒が入っていたせいか、顔が赤くて、ふにゃふにゃしていて。出会ってから一番可愛い笑顔だった。    ——ああ、連れてきて良かった……  緊張しすぎな彼をみて、失敗したかと不安になったが、それは楢崎の勘違いだったようで安心した。こんなに喜んでくれているのだ。本当に、連れてきて良かった。
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