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「だってさあ、今帰省中ってことは大学生でしょ?」
「うん、そうだな」
「春休みで暇だったから、おっさんに構ってくれたんじゃねえの?」
「そうそう。新学期始まったら、授業が〜とか、課題が〜とか言って付き合ってくれなくなるんじゃない?」
「え……」
確かに、彼らの言う通りだった。平良がいつでも楢崎に付き合ってくれるのは、今の彼に時間があるから。楢崎に付き合ってくれているのは、単なる暇つぶしだとしたら。もし彼が学業で忙しくなったら、会ってくれなくなるかもしれない。
想像しただけで、一気に気持ちが沈んでしまった。疲れているせいか、どんどんマイナスの方向に考えてしまう。
「あー……それは嫌だなあー……」
楢崎は頭をかかえて、カウンターに伏せってしまった。
「ま、わかんないよ? 暇つぶし相手じゃなくてちゃんと友達って思ってもらえてたら大丈夫だろうし」
「友達……友達か……それも嫌だな……」
「は? 前は友達でいいって言ってたじゃん」
「うーん……もっと、特別な……特別がいい」
「はっ、やっぱり欲が出たじゃねえか」
言った通りだろ、と鎌田が鼻で笑った。
このとき、以前彼に言われたことを思い出した。
——『どうせ欲が出て、付き合いたいだの言い出すだろ』。
「そっか……俺、あの子の恋人になりたいんだな……」
「あー、認めちゃった」
「ノンケ相手に夢みんなよ……」
「うん……最初はどうにかなろうなんて、思ってなかったんだけどな……」
最初は遠くから眺めるだけだった。あいさつされて『お話してみたいな』と思うようになった。それがいつの間にか『好き』に変わり、『友達でいいから一緒にいたい』になって、『恋人になりたい』と思うようになってしまった。無理だと分かっているのに。
フラれてないのに勝手にフラれた気分になって落ち込んだ。やはり今日は駄目だ。疲れている時は、とことんマイナス思考になってしまう。
「マスター、お会計お願い」
「えっ、楢崎さんもう帰るの? 僕ら言いすぎた?」
「……気分悪くしたのなら、謝る」
普段より早い時間に帰ろうとする楢崎を、2人が心配そうに見上げてくる。
「違うよ。もう疲れが限界。明日出勤だから、今日はちょっと寄るだけのつもりだったし」
「なーんだ……おっさんだからか。気を付けて帰ってね」
「気ぃ遣って損した。電車寝過ごすなよ」
「おまえらなあ……」
自分たちのせいではないとわかると、2人の心配そうな顔は一瞬で消し飛んでいつも通りに戻った。ちょっと可愛いところあるじゃん、と思ったのに。
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