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帰りの電車は、少し混雑していた。席はちらほらと空いていたが、座ったら寝過ごしてしまいそうだったので、立っていることにした。疲れていたが、どうせ10分もしたら最寄駅に到着する。
立っていても眠気は治らなかった。暇つぶしにスマートフォンを見ると、1件、メッセージアプリの通知が入っていることに気付いた。
それが平良からだと分かった瞬間、一気に目が覚めた。すぐにメッセージを確認した。
『こんばんは、夜遅くにすみません。地元のお土産を買ってきたので、渡したいのですが、明日の夜はお時間ありますか? ついでに飯でも、と思ったのですが、どうでしょうか?』
『明日オッケーです! お土産ありがとう、楽しみにしています』
考えるより前に返信していた。自分から送る時はあんなに時間がかかるのに、すぐに返信できてしまうのはなぜだろうか。
明日オッケー、と言いつつも、1日オフィスで仕事をすることになっている。休日出勤なので、そんなに遅くなることはないと思うが、念のため早めに出勤しておこう。
憂鬱な土曜日だったはずが、平良のメッセージのおかげで憂鬱ではなくなった。久々に平良と顔を合わせるのが楽しみで仕方がない。
それに、お土産を買ってきてくれるような立ち位置にいることが分かった。暇つぶし相手にわざわざお土産は買わないだろう。平良の中で楢崎の立ち位置は、それ以上だということを確信した。
*
次の日の土曜日。
普段より2時間ほど早く出勤して、昼休みもコンビニおにぎり片手に仕事をこなし、なんとか定時に仕事を終えた。疲れたが、これから平良に会えると思うとその疲れも大したものに感じない。体は多少重いが、心は羽が生えたように軽かった。
待ち合わせ場所は、いつもと同じで楢崎の家の最寄駅。楢崎が駅に着くと、もうすでに平良が改札の前に立って待っていた。
もう春なので、フカフカのダウンコートは着ていない。丈が短めの春用コートを羽織っていた。よく見るニット帽も被っておらず、今日はキャップだった。一本に結んだ髪が、帽子の下からぴょんと出ていて尻尾みたいだなと思った。もこもこしたダウンコート姿はすごく可愛かったが、これもこれですごく似合っていて可愛い。
「ごめん、平良くん! お待たせ!」
「あっ、楢崎さん! こんばんは」
楢崎を見つけた瞬間、ぱあっと顔を明るくさせた平良。それを見て、本当に今日がんばって来てよかったと思った。
「あれ、今日仕事だったんですね……すみません、忙しいときに」
「ううん、全然平気だよ」
——君の顔を見たら疲れなんて吹っ飛んでいったよ。
ちょっとくらい気障なことが言えたらいいのだが、そんなセリフは死んでも言えないのでそっと胸にしまっておく。
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