519人が本棚に入れています
本棚に追加
「あれ……本当に大丈夫ですか? ちょっと顔色が」
「えっ? 大丈夫だよ、超元気!」
「もし疲れているようでしたら、飯はまた今度でも……」
気を遣ってくれているのはわかるが、それは絶対に嫌だった。せっかく会えたのだから、もっと一緒にいたい。楢崎は必死になった。
「本当に大丈夫だから。せっかく久々に会えたし、ちょっとだけ付き合ってよ?」
本当は縋りつきたいほど必死だったが、実際に縋り付いたただの変な人になってしまうので堪えた。なるべく必死さを出さないように、極めて冷静に、会社で評判のいいと言われている笑顔で、平良に笑いかけた。
「楢崎さんが大丈夫なら……軽く、行きましょうか」
よかった、と楢崎は胸撫で下ろした。今日頑張った意味がなくなるところだった。
平良の顔を見て疲れは半分以上消え去ったので大丈夫だろう。そう思っていたが、それは間違いだった。心の疲れは消え去っても、身体の疲れはそんなものでは飛んで行ってくれないのだ。
疲れた身体と空きっ腹に、いきなりアルコールを流し込んだのが良くなかった。いつもの量の半分程度で、楢崎はすっかり酔っ払ってしまった。
店でうとうとしだした楢崎に、これはもう駄目だと判断した平良が、店員に水と会計を頼む。うとうとしていたが、絶対に平良に払わせないと決めているので楢崎はちゃんとお金を払って店をでた。
「楢崎さん、大丈夫ですか? 家、こっちで合ってます?」
「うん、大丈夫……合ってる。あっちのコンビニの、向かい」
うとうとしていただけで、割と頭の中ははっきりとしていた。けれども、心配した平良が甲斐甲斐しく世話を焼いてくれるので、甘えたくなってしまった。意外と世話焼きなんだなあ、いいなあ、と思った。
手を掴んで、引いて歩いてくれるのがすごく嬉しくて。ちょっとだけ握り返してみると、驚いたのかピクリと肩が震えた。ああ、可愛い。
「コンビニの向かいのって……このマンションですか?」
「うん、そう」
「す、すごいマンション……」
マンションの前に着くと、平良の手は離れていってしまった。ちょっと寂しい。
最初のコメントを投稿しよう!