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「あ、そうだ。これ、お土産です」
「ありがとう。頂きます」
「楢崎さん、ビール好きだと思ったので……地元のビールと、あともう1本、別の酒を」
「へえ、美味しそう。泡盛?」
「はい。全然大したものではありませんが……」
「ううん……すごく嬉しい。ありがとう」
受け取った紙袋の中には、思ったよりたくさんお土産が入っていた。嬉しくて上機嫌の楢崎はにっこりと笑った。
「そんなに喜んでくれるなんて、思わなかった……」
「えっ? お土産貰ったら、誰でも嬉しいでしょ」
「そういうもんですか?」
「そりゃあ、そうだよ。だって、俺のこと考えて選んでくれたんだよね? そんなの、嬉しいに決まってる」
そうでしょ、とにこり笑いかけると平良は少し驚いたような顔をして固まってしまった。一拍遅れて、ボッと顔が赤くなった。
「えっと、そんなふうに思われてるのかって、思うと……なんか、めっちゃ……照れますね……」
語尾に行くにつれて、ゴニョゴニョと声が小さくなっていってしまう。本当に照れくさいのか、ふいと視線が逸らされてしまった。ああ、そういう照れ屋なところもたまらない。ふさふさのまつ毛も、すぐに赤くなる頬も、本当に本当に可愛い。ああ、やっぱり——……
「……好きだなあ」
長いまつ毛に縁取られた瞳が、大きく開いた。赤い顔をさらに赤くして、彼は逸らしていた視線を、再び楢崎の方へ向けた。
「え……っ、な……なら、さき、さん」
「…………うん?」
サア、と血の気が引いた。酔いが一気に覚めた。ふわふわしていた頭の中が、一瞬にして凍り付いた。
声に出したつもりはなかったが、平良の反応を見てすぐに分かった。言ってしまったようだ。
——やばい、なんとかしないと。
「あ、はは……ごめん、なんか寝ぼけてたみたい。送ってくれてありがとう」
「は、はい……では、俺はこれで……」
「うん、またね」
顔は、怖くて直視できなかった。普段だったら、楢崎がいなくなるまで見送ってくれるのに、今日は早足で去っていってしまった。
完全にやらかした。引かれてしまった。
『ノンケは好きになっちゃ駄目』という加賀美の忠告を無視して平良を好きになった。『欲が出る』という鎌田の言葉を、自分は平気だと軽んじて平良にちょっかいを出した。先輩たちの数々のアドバイスを聞かず、平良に夢中になって突っ走ったバチが当たったのだ。
きっともう、平良は会ってくれないだろう。
短い恋だった。もう少し夢を見ていたかったのに。
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