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男にしては細めの手足に、すらっとした身体つき、そして白い肌。身長は低くはないが、楢崎よりは低い。180センチはないように見える。
たぶん、2人はとても需要の高いネコなのだろう。自信満々に『楢崎さんとは違う』と言うのも、悔しいが理解できてしまう。
「……え、なに楢崎さん。なんで僕らの方じっと見てるの? キモいんだけど」
「急にどうした? おっさん眠いのか?」
10以上も歳が離れているはずなのに、2人は楢崎に対して遠慮なしにモノを言う。出会った時からそうだったが、この2人には完全に舐められている。——まあ、猫を被らずに話ができる相手としてありがたいので良いのだが。
隠しても仕方がないので、思っていたことを素直に言うと、2人はぐっと眉間に皺を寄せた。
「はあ? それ楢崎さんが言うの? モテモテのくせに」
「モテてないだろ……モテてたら、とっくに恋人作ってるって。バレンタインにひとりで飲みに来ないだろ」
「……恋人できないのは、あんたのその変な性癖のせいでしょうが」
「そうそう、楢崎さんって結構ネコに人気だよ? その変な性癖さえなければ、誰とでも付き合えそうなのに」
2人の攻撃に、ぐっと言葉を詰まらせた。なぜ言い返せないかというと、それは2人の言うことがあながち間違っていないからだ。
この店で1人飲みをしていると、結構な頻度で声をかけられる。背が高く男らしい体付きの楢崎に目をつけた、小柄で可愛らしいネコの青年たちに。悪いなと思いながら、彼らの誘いを断ったのは何回あっただろうか。
加賀美と鎌田の言う通り、楢崎はそれなり——いや、結構モテるのだ。しかし、恋人は出来ない。
なぜそんな状況なのに恋人が出来ないのか。それは、楢崎自身に問題がある。
「つーか、さっきから"変な性癖"って……別に性癖じゃないし、ちょっと好みが変わってるだけだろ」
「はぁ? 好みどうこうじゃないだろ……」
「そうだよ! バリタチのくせに、自分より"ガタイが良くて背が高くて若い男の子のとろ顔を見ないと勃たない"なんて、立派な性癖でしょ!」
改めて言われると、我ながらなんだそれは、と思ってしまう。そして、この2人にそれを話したことをものすごく後悔した。
楢崎龍一は、世間一般から見て、勝ち組に属する。
イケメン、高身長なのはもちろん。国立大学卒の高学歴。そして一流企業に勤め、その会社の中でも、ものすごい勢いで出世した営業部の若きエースと謳われ、更なる出世も期待されている仕事のできる男。
しかし、抱く側のくせに、"自分よりガタイが良くて背が高くて若い男のとろ顔を見ないと勃起しない"という、少し変わった癖を持った男なのだ。
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