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2.ノンケは好きになっちゃ駄目
バレンタインの夜。行きつけの店でそれなりに呑んだ楢崎は、終電を理由に店を出た。
電車の中は若いカップルばかりで、それなりに混雑していた。デート帰りか、あるいはこれから家にお泊りに行くのか。そんなことが当たり前であるカップルたちが、少し羨ましい。
気になるあの子と、もしそんなことが出来たら——、そんなことを考えて楢崎は大きなため息を吐いた。さっき、加賀美に言われたばかりだろう。『ノンケは好きになっちゃ駄目』と。
楢崎の癖の話の後、話題は転々と変わり、『最近見つけたタイプの人』の話になった。
「僕はずっと変わらないもんね〜ずっと好きな人いるから」
「既婚者だろ、いい加減諦めろ」
「はあ〜、最悪。なんで水刺すようなこと言うかなあ?」
テンポの良い2人の会話は聞いていて面白い。加賀美から、ずっと好きな人がいるとは聞いていたが、既婚者だということはこの時初めて知った。やめておけ、と警告する前に、加賀美から質問が飛んできた。
「楢崎さんは? タイプの人見つけた?」
「楢崎さんはないだろ。まず、この人よりデカい人を見つけるのが難しい」
「あっ、そっかそっか〜、ごめんね楢崎さん」
答える前から決めつけられてしまったので、少しだけムッとした。だから、2人を少し驚かせようとして、自慢げに答えた。
「……そう思うだろう? でもな、いたんだよ!」
「ええ〜っ、ウッソだー! どこで見つけたの?」
さっそく浮いた話が好きな加賀美が飛びついた。鎌田は無言だったが、早く続きを話せと表情で訴えてくる。
「通ってるジムの受付に居たんだけど……少しでも話出来たら良いな〜なんて……」
「……ジム?」
「えっ、二丁目でとか、マッチングアプリじゃなくて?」
「えっ、そうだけど……」
あんなにうきうきしながら話を聞いていたふたりだったが、急に憐れみの目を向けながら、ため息を吐いた。
「そんなの絶対ノンケだろ……」
「楢崎さん、諦めた方がいいよ。ノンケは好きになっちゃ駄目」
「お、おお……」
——あれ、俺片想いしてるなんて言ったっけ……?
きっと2人も酔っていたのだ。まさか既婚者を狙っている加賀美に言われると思っていなかったのだが、いつになく真剣に放たれた言葉に、楢崎は頷くしか出来なかった。
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