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珍しい日に
晴れた日の午後。
榊は、菫とのデート中だと言うのに、浮かない顔をしていた。菫もそのことには気付いていて、気遣わしげに恋人の顔を伺っている。
「晃さん、元気無いですよ。どうしたんですか?」
「そりゃ……こうまで上手くいかなきゃ、落ち込むだろ」
菫は目を丸くしながらも、公園のベンチまで榊を引っ張り、一緒に座る。
「上手くいかないって?」
不思議そうな顔の菫をしばらくじっと見つめ、榊はくしゃりと菫の頭を撫でる。くすぐったそうに目を細める菫を見、榊の顔が少し綻んだ。
「今日、ホワイトデーだろ」
「ええ。だからこうして晃さんと、デートしてますよ」
菫は何を今更、という顔で榊を見上げる。榊の顔は途端に曇った。
「ところが、だ。行くはずだった水族館とレストランは臨時休館、変な霊にちょっかい出されて撒くのに時間掛かって、もうこんな時間だぜ……。腹減っただろ」
菫は、ようやく合点がいったような顔になる。
「晃さんって、そういうことを気にされる人だったんですね」
「傷ついたー。俺にも矜持ってもんがなあ、」
わざとらしくへこんだ様子になる榊の頬へ、菫は口付けた。言葉を止めた榊に、小さく笑う。
「私にとっては、晃さんが側にいてくれることの方が大事です。これはこれで面白いですし」
榊は菫をしばらく見つめた後、長く息を吐き出した。
「か〜〜……これだよ……」
そのまま、不意に菫を横抱きに抱える。菫は、焦った様子で榊にしがみつく。
「ちょっと!外ですよ」
「望むところだ」
榊は、にやっと笑った。ふわりと、菫のオフホワイトのワンピースと、スミレ色のカーディガンが広がる。
「今日会った時から、花みたいで可愛いと思ってた」
菫の耳に口を寄せて囁いた後、榊は真っ赤になった菫の頬を撫でる。満足そうに笑った。
「まずは飯から。仕切り直しさせてくれ。俺だって、可愛い恋人には格好つけたいんだよ」
菫は不思議そうな顔をする。
「いつも格好良いですけど」
菫の言葉に、榊は真顔になった。
「……なんかもう、家帰ってずっといちゃつきたくなってきたな」
「真面目な顔で何言ってるんですか」
抗議する菫の髪を、榊は柔らかく梳く。
「菫の好きなお菓子と、花も買うつもりで考えてたんだ。今まではダメダメだったが。付いてきてくれるか?」
軽やかに菫を立たせ、その手を取った榊は、恭しく手の甲に口付けた。菫はあまりに絵になるその様に目を丸くしたが、和やかに笑う。
「もちろんです」
繋いだ手は離さないまま、二人はしばらく笑い合った。
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