年越し蕎麦と

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年越し蕎麦と

※本編「地蔵と歳神と佐和商店」後の二人 「(すみれ)。蕎麦出来たぜ」 「……あれ。すみません」 菫は目を開けた。目を閉じた記憶が無かったが、居眠りしていたようだ。(さかき)の部屋にはこたつがあり、結局菫は出られなかった。 「寒かったし、病み上がりだからな。疲れたんだろ。気にするな」 「お蕎麦、ありがとうございます」 もう年は越したが、榊の部屋で二人、遅い年越し蕎麦を食べることにしたのだ。 「温かい蕎麦最高……」 蕎麦をすすり、榊は息を吐く。 「美味しいです……」 菫もホッとしたように笑う。そのまま、思い出したように口を開く。 「あのかまくらが無くなったのは、惜しい気がします」 榊は向かいに座る菫を見る。 「何で?」 「私と(こう)さん、入って飲食してないじゃないですか」 「何か食べたかったの?」 「……せっかく作りましたし、一緒に甘酒とか飲んだら楽しいかな、って」 一度箸を置き、榊は手で顔を覆う。歳神やら地蔵やらの来訪、という超常現象があったのに、そんな可愛いことを考えていたとは。肝が座っているのか、天然なのか。どっちもか。 「……ドカ雪降ったらまた作るから」 「え、絶対じゃないですからね!?」 少し慌てる菫に、榊は手を外してにやっと笑う。 「可愛い恋人の可愛いお願い、叶えてやりたいじゃん」 「ちょ、晃さん!?」 菫は顔を真っ赤にする。可愛いことを言ったなんて自覚は無く、時差で恥ずかしくなったのだ。 榊はそんな菫を見、幸せそうに笑った。
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