救いの声

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救いの声

悪夢を見た。 目覚めた今、内容は覚えていない。 だが、後味の悪さと怖さが、冷や汗と共に残っている。気分が悪い。枕元のスマホが鳴った。この深夜に。とりあえず取ると、今一番聞きたかった声が聞こえる。 “(こう)さん?” 「(すみれ)か?どうした?」 “声が聞きたかったので。起こしてごめんなさい” 違う。俺が悪夢を見た晩は、かなりの確率でこうして深夜でも電話をくれる。菫自身が悪夢を見た晩も時々電話が来るが、声が寝起き。俺が悪夢を見た晩は、まるで分かっていたようにいつもの声だ。今も。 「いや。菫の声が聞きたかった。夢見が悪くてな。今起きた。助かったぜ、本当」 息を吐き出す。我ながらひでぇ声。 「菫、何で分かるんだ?俺が魘されてんの」 電話の向こうで唸り声が聞こえる。 “私も、分かるのは晃さんが初めてなので、確かなことは言えませんけど……晃さんが大事な人だからだと思います” 言い切る菫の直球の威力。悪夢とかもうどうでも良い。 「……抱き締めてぇ」 “えっ!?” 焦る声に、笑う。 「電話くれるのは嬉しいけどな。菫もちゃんと寝ろよ」 “私が、勝手にやってることなので。本当は側にいたいですけど。心配なんです。夢は夢ですけど、気分悪いし……” 萎んで行く声に、胸が暖かくなる。菫にしか出来ない。つか俺の恋人可愛すぎ。 「じゃあ、助けてもらうかな。俺も出来ねーかな、それ」 “晃さんは、もうたくさん助けてくれてます。それに、いろいろ分かる晃さんがこれ以上分かることが増えたら、辛くなりますよ” 戯けるような、苦笑いのような珍しい調子の笑い声が、何故か胸に来る。なら、菫は。まだまだこの娘を知らない、分かってないことばかりだと思い知らされる。 「菫のことが分かるなら、良いさ。願ったり叶ったりだろ」 “そんなこと言って!” 本気で怒ってる声が、愛おしい。心配してくれることが、嬉しい。が、眠気が戻って来た。良いとこで。 「眠くなって来た。寝落ちるまで繋いでていいか?」 “良いですよ。子守歌でも歌います?” ヤケクソみたいな言い方に笑う。面白過ぎ。 「歌ってくれんの?俺菫の歌聞いたことないけど」 “……また悪夢見たら困るので、止めましょうか” 「えー」 “寝てください” スマホを枕元に置く。菫の声が少し遠ざかる。 「明日家寄って……菫が足りねぇ……」 “何ですか、それ” 言葉と裏腹に、菫の声は優しい。寝れそう。 朝まで見た夢の中。透明感のある優しい歌声が、俺をずっと癒やしてくれた。絶対菫だけど、歌ってくれなくなったら困るから、起きてる時に歌わせるまで黙っておくことにする。
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