3人が本棚に入れています
本棚に追加
/18ページ
あるかもしれない未来の話
※本編「クリスマスループ」を書く前にフライングで書いた話です
「ーー菫?大丈夫か?」
「は、はい。すみません」
「ゆっくり行きたいんだが、こう人が多いとな」
榊は菫の手を引きながら、苦笑いを浮かべる。菫も小さく笑う。
「お休みですしね。仕方ないです」
休日の公園。公園と言っても、大きな公園で、娯楽施設もあり混雑している。
よく晴れて、行楽日和なことも原因の一つ。
「家で休んでたかったんじゃないですか?」
「心はそうなんだけどよ、身体は鈍るんだわ……」
「確かに……」
真剣に考え込む菫を、榊は複雑な表情で見ている。だが、息を一つついて、笑った。
「菫が焼いたクッキー、外で食べたいじゃん。こんな天気良いんだし。もっと美味くなるだろ」
「榊さん、よくそういうことさらっと言えますね……」
菫が少し頬を染めて俯くのを、榊は手を引いて木陰に連れて行く。驚く菫を木に軽く押し付け、その両頬を両手で優しく引っ張る。
「店の外で二人きりの時は、何て呼ぶんだっけ?」
菫は耳まで真っ赤になって顔を逸らそうとするが、榊は許さない。恥ずかしさで涙目になりながら、榊を見上げる。
「……晃、さん」
榊はニヤッと笑って、手を離す。
「よく出来ました」
「……意地悪」
菫の精一杯の抗議に、榊は優しく笑って頭を撫でた。
「直ぐ慣れるさ。一緒に居るこれからの時間の方が長いんだからな」
榊は歩き出す。菫は言われた言葉の意味を飲み込んで、榊の隣に並んで歩き出した。
最初のコメントを投稿しよう!