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プロローグ
何でこうなったんだろう?
鏡に映る自分の顔には疑問と戸惑いが溢れていて、心臓はドキドキと頭の中で響くほど鼓動がうるさく鳴っている。
外からはテレビの音が微かに聴こえてくるけれど、それ以外の音は何も聴こえなくて相手の動きは全く分からない。
まさか急に入って来たりしないよね?
念のため、と脱衣所の鍵を掛けて濡れた服を順にのろのろと脱いでいく。
すると姿見に自分の貧相な裸体が映し出され、思わず両手で胸を隠した。
誰にも見られてないとはいえ、なんだか凄く恥ずかしく思えたからだ。
誰にも…といってもドアの向こうには鬼上司。
入って来ることはまずないけれど、相手が同じ空間に存在しているだけで心もとない。
私は急いで中に入ると、シャワーで体を流し素早く湯船に浸かった。
体がお湯の中に隠れてホッと息を吐いた。
ドアの向こうに意識を向けるけれど、あの人が入って来る気配は無い。
それは当然なんだけど、ふたりきりの状況に緊張していたから安心する。
そうしていれば、冷えた体が徐々に芯から暖まっていく。
「はぁ…あったかい」
思わず呟きながら脳裏に思い浮かんだのは、部屋で待つ上司の嫌味なほどに整った顔。
イケメンなのに中身は鬼だもん、あの人。
優しかったら最高なのに。
そんな天敵である鬼上司と今夜は同じ部屋にお泊まりになるなんて本当に最悪だ…と溜め息が溢れる。
でも、ちょっとだけだけど、さっきは優しかった…かも。
いや、絆されるな私!
まさかこんな展開になるなんて…と、私はこの怒涛の一ヶ月を思い返した。
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