お昼休みはウワサでいっぱい

2/10
前へ
/34ページ
次へ
「うわっ!」 箸の先についていたラーメンの汁がこっちへ飛んできて思わず避けた…つもりだったけど、それも無駄な動きだった。 ついちゃった…泣きたい。 私が服についた汚れでショボッとしていると、隣の石原さんはというと「飛ばさないでくださいよ!」と眉をつり上げていた。 「あ、(わり)ぃ」と適当に謝った松山さんを石原さんがギロッと睨み「人に箸先向けたらダメって教わりませんでした?」と低い声を出した。 石原さんは美人なだけに迫力凄すぎて怖い――が、頼もしい。 もっと言っちゃってください、石原さん! 服の怨みだ!と、密かに拳をグーにして応援する。 けれど松山さんはというと、それを意に介さず「ゴメンって~。気をつけるから許して」とウィンクしながら片手で謝った。 ゴメンの気持ち、軽い。 「ウィンク要りません」 石原さん厳しい。 「はぁっ、とにかく明日を思うと胃が痛いぜ。やだやだ」 早々に話を切り替えた松山さんは、沈痛な面持ちで再びズルズルと麺を啜った。 その様子に前田さんと石原さんも小さく溜め息を吐く。 うっ、空気重い…。 どうしてこうも皆して気が重くなっているのかというと明日、本社の人間がここへやって来ることになったから。 それも決まったのは一昨日の定時の十七時。 皆が『やれやれ帰るか~』とデスク回りを片付けていた時だった。
/34ページ

最初のコメントを投稿しよう!

670人が本棚に入れています
本棚に追加