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永遠野薫に出会って、私の人生は変わった。あたしは女優を目指すと。
高三の春、あたしは市のイベントの手伝いに借り出され、市民会館でゲストの世話をすることになった。その時、女優の永遠野薫と出会ったのだ。
初めて見た本物の女優はショートカットでユニセックスな佇まいでオーラを放ち畏れ多くて近寄れなかったが、勇気を出して歩み寄り震えながらもミネラルウォーターのペットボトルを渡すことができた。
「ありがとう」
ハスキーな声で、たぶんほんのちょっとした御礼だろうけど、あたしには雷に撃たれたような衝撃だった。
この人の側にいたい、ううん、一緒の舞台に立ちたい、うん、それしかない。
進学も進路もそんな悩みは吹っ飛んだ。
あたしは女優になりたい。
※ ※ ※ ※ ※
地元の大学に行く予定だったが、東京の大学に変更し、必死で勉強した。永遠野薫の母校を受験するためだ。
しかし、付け焼き刃では偏差値の差は埋められず、失敗。
滑り止めの大学も東京を選んでいたので、とりあえず上京はできた。
学業と並行して演劇の勉強も始める。
大学の演劇サークルの先輩が主催している劇団に入った。
演劇のレッスンはつらかったが、挫けそうになると永遠野薫の情報をネットで追いかけて奮い立たせた。
まるでネットストーカーのように情報を漁りまくったので、彼女のことならなんでも知っているようになり、その真似をとことんした。女優になるために。
※ ※ ※ ※ ※
大学を卒業すると、就職もせずにそのまま東京に残った。
親からは女優になるなんて無理だからやめなさいと言われたが、聞く耳を持たずに安いアパートに引っ越して、アルバイトをしながら生活費を稼ぎ劇団の舞台に立った。
発声練習や演劇練習、裏方の手伝いを経て舞台に立てるようになり、端役、脇役そして副主人公にまでやれるようになったが、どうしてもあと一歩で主役になれるになれなかった。
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