アクトレス あたし、女優になりたいんです!![読みきり]

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 まさかの言葉に耳を疑った、聞き間違いだろうか。 「あなたが通ってたスナックのママって私の妹なの。面白いコがいるよってきいてね。カヲルに様子を見に行かせたの。カヲル、入っておいで」 「やれやれようやく出番か。草野さん、昨夜はどうもスカウトをやってる菅尾カヲル(すがおかをる)です」  素面で明るいところで見ると、ただの優男ではなく女顔のイケメンであり、親子というだけあって社長とどことなく似ている。 「おばさんに教えてもらって、このひと月あなたのことを調べていました。草野千種さん、劇団での演技も見たうえでスカウトしました。あなたなら永遠野薫の代わりになると」 「代わり……って、どういうこと?!」 聞き捨てならないことを言われて、カヲルに噛みつくように詰め寄る。 「それは────」  ──事情をきいたあたしは、その日のうちに劇団へ行き辞めることを告げた。 「負け犬ね」 高嶺白百合にそう嘲笑われたが、気にしなかった。あたしには使命があるからだ。 ※ ※ ※ ※ ※  ──一年における社長自らの特訓の末、あたしは大女優の登竜門とも言われる、国営放送の朝のドラマ主演に抜擢された。  厳しいオーディションだったが、あたしには選ばれる自信があった。 「すごいわね、このアクトレス」  髪の中に隠し持ったチェーン型のサークレットをそっと撫でた。  ──一年前、社長とカヲルから打ち明けられたあたし達三人の秘密、それは永遠野薫が行方不明ということだった。 「ええ、行方不明って」 「もともと放浪癖があったんだけどね、ひと仕事終わる度に旅に出て、ふらっと戻ってくるコだったの。だから今度もそうだと思ってたんだけど、どうもそうじゃないみたいなの」 「どうしてそう思うんです」 「これよ」  社長がポケットから取り出した物は、小さな小さな宝石の付いた極細チェーンだった。 「あなた、永遠野にオーラがあるって言ったらしいわね。実はこれのおかげなの」 「母さん、それ以上は」 「ああそうね。草野千種さん、あなたに永遠野薫を助けてほしいの。そのためには秘密を守る約束をしてほしいのよ」 「彼女のためになるなら、何でもします」 「即答ね」 社長は呆れ、カヲルはもっと考えてから答えてと言ったが、決意は変わらなかった。  そして社長は説明をしてくれた。この宝石はアクトレスという。 「遥かな昔にね、女王が治める小さな国があったの。そこは常に大国や強国により存亡の危機にあってたんだけど、女王は外交と交渉で数々の危機を切り抜けていたわ。そしてその女王が身に着けていたのがこの宝石なの」
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