1人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
まさかの言葉に耳を疑った、聞き間違いだろうか。
「あなたが通ってたスナックのママって私の妹なの。面白いコがいるよってきいてね。カヲルに様子を見に行かせたの。カヲル、入っておいで」
「やれやれようやく出番か。草野さん、昨夜はどうもスカウトをやってる菅尾カヲルです」
素面で明るいところで見ると、ただの優男ではなく女顔のイケメンであり、親子というだけあって社長とどことなく似ている。
「おばさんに教えてもらって、このひと月あなたのことを調べていました。草野千種さん、劇団での演技も見たうえでスカウトしました。あなたなら永遠野薫の代わりになると」
「代わり……って、どういうこと?!」
聞き捨てならないことを言われて、カヲルに噛みつくように詰め寄る。
「それは────」
──事情をきいたあたしは、その日のうちに劇団へ行き辞めることを告げた。
「負け犬ね」
高嶺白百合にそう嘲笑われたが、気にしなかった。あたしには使命があるからだ。
※ ※ ※ ※ ※
──一年における社長自らの特訓の末、あたしは大女優の登竜門とも言われる、国営放送の朝のドラマ主演に抜擢された。
厳しいオーディションだったが、あたしには選ばれる自信があった。
「すごいわね、このアクトレス」
髪の中に隠し持ったチェーン型のサークレットをそっと撫でた。
──一年前、社長とカヲルから打ち明けられたあたし達三人の秘密、それは永遠野薫が行方不明ということだった。
「ええ、行方不明って」
「もともと放浪癖があったんだけどね、ひと仕事終わる度に旅に出て、ふらっと戻ってくるコだったの。だから今度もそうだと思ってたんだけど、どうもそうじゃないみたいなの」
「どうしてそう思うんです」
「これよ」
社長がポケットから取り出した物は、小さな小さな宝石の付いた極細チェーンだった。
「あなた、永遠野にオーラがあるって言ったらしいわね。実はこれのおかげなの」
「母さん、それ以上は」
「ああそうね。草野千種さん、あなたに永遠野薫を助けてほしいの。そのためには秘密を守る約束をしてほしいのよ」
「彼女のためになるなら、何でもします」
「即答ね」
社長は呆れ、カヲルはもっと考えてから答えてと言ったが、決意は変わらなかった。
そして社長は説明をしてくれた。この宝石はアクトレスという。
「遥かな昔にね、女王が治める小さな国があったの。そこは常に大国や強国により存亡の危機にあってたんだけど、女王は外交と交渉で数々の危機を切り抜けていたわ。そしてその女王が身に着けていたのがこの宝石なの」
最初のコメントを投稿しよう!