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当時名もなきこの宝石は女王のサークレットとして常に額にあり、交渉の場において立ち振る舞いのインスピレーションを与えてくれたという。
そのおかげで相手の望む応対をしつつ、自国に有利な約束を取りつけその国を護り続けたという。
「結局その国は滅亡しちゃったんだけど、その後この宝石は交渉の護符として人手に渡り歩き、いつしかアクトレスと名付けられ、持つものに最適な行動を与える魔法の宝石となったの」
なんか霊感商法みたいな話になってきたなと一瞬怯んだが、それを吹き飛ばしたのが社長の行動だった。
サークレットを着けてくるっとその場で一回転した社長は、さっきまでのただのオバサンではなく、カリスマ社長といっていいほどのオーラをまとっていた。
「千種、あなたは永遠野薫のために生きるのよ」
「は、はい」
有無を言わさず、命ずるのを従うのが当たり前と感じた。効果は抜群だった。
※ ※ ※ ※ ※
あたしに与えられた使命は、永遠野薫の帰る場所であるこの事務所を守ることだった。
看板女優というか、彼女しかいないこの事務所では、他の女優がいないと仕事が無いのだ。
だから彼女が帰るまでのあいだは看板女優代理として、戻ってきたら二枚看板として売るというのが社長の方針だった。
実際、プレッシャーは凄かった。なにしろ大女優永遠野薫の代わりとして売り出されたのだ、失敗は許されないうえに世間の期待が大きい。
あまりの重圧に何度も吐きそうになり、泣きだして逃げたくもなった。
だけどアクトレスを身に付けると不思議と落ち着き、望んだ通りの演技が出来、そしてそれはまわりから好評価を得た。
期待の新人現る
遅れ咲きの超新星
新人ながら本格派女優の貫禄
メディアにはそんな言葉であたしを讃えてくれた。
実際、色んな役がまわってきた。
正統派恋愛、サスペンス、ホラー、コメディ、シリアス、不倫モノ、コメディ、人情モノ、などなど。
「同じ役ばかりやってるとイメージが固まっちゃうでしょ、だからカヲルがちょっとズラした役を受けてきた」
スカウト兼事務職兼営業兼総務兼経理のカヲルが、文字通り獅子奮迅の活躍をする。
社長兼マネージャーの映子さんは、一緒に行動し裏で色々とフォローしてくれるし、褒めたり、叱ったり、慰めたりとメンタルのケアもしてくれる。
あたし達三人は共通の目的と秘密を持つことにより、まるで家族のような間柄となり一丸となって働いた。
その結果、その年の新人賞を総ナメするという結果を出したのだ。
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