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あたし達はさらに頑張ったが、それにともない不安がわいてきてもあった。
今のあたしの評価はアクトレスのおかげでもある。
もし、永遠野薫が帰ってきたら、これを返さなければならない。そうなったらあたしの、草野千種の評価はどうなるんだろうか。
社長は二枚看板で売ると言ってくれたが、アクトレス無しのあたしがそれを出来るだろうか。
さすがにこの悩みは話すことができず、ずっと抱えながら働いてきた。
※ ※ ※ ※ ※
そんなある日、カヲルがとんでもない仕事を取ってきた。
「千種のいた劇団からのオファーで、高嶺白百合とのW主演の興業をやりたいそうだ」
高嶺白百合。
この名を聞いてあたしは崩れ落ち、泣き出してしまった。
「ど、どうした千種」
カヲルの問いかけに応えず、ただただ泣き崩れた。
高嶺白百合は、あたしが出ていったあとも着実に人気を取り、賞こそ取れなかったが話題には必ずあがる真の実力者としてメディアに扱われていた。
彼女はアクトレス無しであたしと同じような評価をされた。間違いなく本物の女優で、彼女こそが永遠野薫にもっとも近い大女優だとあたしは思ってた。
半泣きのまま、カヲルに今までの不安を、アクトレス無しでは自信が無いことを吐露して、ようやく落ち着いたのだ。
「そうだったのか千種、それならもっと早く言ってくれればよかったのに」
「言ってどうなるのよ、高嶺は本物よ、近くで見てきたらか解るの、彼女からは永遠野薫と同じオーラが出てるって。あたしは、あたしは、アクトレス無しでは絶対に勝てない、W主演になっらメッキが剥がれて酷評されるのが、目に見えるのよ、どうしても勝てないのよ」
「そんなことはない、今の千種なら大丈夫だよ」
「気休めはよしてよ、はっきり勝てないって言ってよ」
泣き叫び取り乱すあたしに、カヲルは抱き締めると深い深いキスをする。
不安を忘れたかったあたしは、そのままカヲルの行為を受け入れ、何もかも消すようにその行為に没頭した。
※ ※ ※ ※ ※
──簡易宿泊室のベッドで、カヲルの腕枕に寄り添いようやく落ち着く。
「出演、ことわってよ」
「いや、出るべきだ。僕も応援するから」
「あなたが応援しても変わらないわ、だからことわってよ」
「千種、その前に僕の話をきいてくれ」
カヲルはあたしからアクトレスを取り、ベッドから下りると、シーツを纏いくるっとその場で一回転した。あたしはあっと驚く。そこには永遠野薫がいた。
「カ、カヲル、あなたが永遠野薫だったの? 男だったの?!」
「そうだよ、これがアクトレスを付けた僕の姿なんだ」
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