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「母子家庭だった僕はアクトレスを使って正体を隠し、女優としてデビューした。その結果は知ってのとおりだ。だけど心はやっぱり男だったから女優を続けることに限界がきてたんだよ」
「じゃあ行方不明ってのは」
「本当はそのまま消えるつもりだったんだ。けど、母のことを思うとそれも出来なかった。だから後継者を探してたんだ。そして千種に会えた」
そうだったのかと、あたしは驚きとともに安堵もした。
「じゃあもう永遠野薫に戻らないの」
「いや、戻ることにする。だからアクトレスは返してもらうよ」
「そ、そんな。それ無しじゃあたしなんて二流以下なのよ、お願い、返してよ、せめて高嶺白百合の前では付けさせてよ」
しかしカヲルは返してくれず、そのまま部屋を出ていってしまった。
途方に暮れたあたしのところに、カヲルは戻ってくると、目の前に二つのサークレットを差し出した。
「もっと早く言えば良かったんだけどね。実は千種に渡したサークレットはアクトレスの模造品の時もあったんだ。僕自身、依存症になりかけていた時があったから、同じ轍を踏まないように時々取り替えていたんだよ」
「え、じゃあ……」
「千種の実力は本物だ。難役をこなすことによって叩き上げだけが手に入れることができる真の女優オーラを手に入れてるんだよ」
カヲルは二つのサークレットをあたしに手渡すと、話を続ける。
「劇団からのオファーは受ける。アクトレスを付けるかどうかは千種が決めてくれ。僕はもう高嶺白百合に張り合える、いや、勝てる実力を持ってると信じてる。自信が無ければ付けてもかまわないよ」
サークレットとカヲルの目を交互に見て、あたしは心を決めた。
※ ※ ※ ※ ※
あたしと高嶺白百合のW主演舞台は共に好評を得て、ロングランの末、千秋楽を迎えた。
メディアはこぞって絶賛し、高嶺白百合とはこれからもライバルとして互いに高めあおうと握手をする。
最終日は二人ともスポットライトとともにスタンディングオベーションによる万雷の拍手を浴びた。
電撃復帰して客演してくれた永遠野薫とともに。
ーー 了 ーー
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