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1話 白家①
「ほんっとにお前はトロいなぁ、美雨」
目の前の従兄弟、白泰然は馬鹿にした目で転んだわたしを見下ろした。隣で同じ守護術師見習いの娘が「本当に」とクスクス笑って、泰然に媚を売るのが目の端に映った。
「……ごめんなさい」
わたしは汚れた膝をはたいて砂を落とす。左の足首がじんと痛んだ。これは捻ったかもしれない。ーー本当は泰然が背を向けた瞬間に、娘の足に引っ掛けられて転んでしまったのだ。
泰然は同年代の子女に人気があった。彼女としては、わたしが彼と同じ邸に暮らす従姉妹というだけでも面白くないのに、婚約者でもあるのが面白くないのだろう。
泰然はたしかに見た目が良い。彼の少しだけ着崩した見習いの官服も似合っていたし、修行中の他の守護術師たちからの評価もなかなかいいらしい。
ただ、わたしに対してだけは当たりが強いけれど。
「俺の分の昼餉の弁当は? 早くしろよ」
「これを。今日は麺麭に具を挟みこんだ料理にしていて、」
「いや良いから! 食う時に見るんだから聞かなくても分かる」
ここで言い返すと泰然の怒りが止まらなくなってしまうので、口をつぐんでおく。
怒鳴りつけられるだけで済めば良いけれど、彼の叔母がするように鞭で打ち据えられでもしたら、わたしには抵抗できない。
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