無職、ハローワークで苦戦する

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無職、ハローワークで苦戦する

「なぜこの資格を取りたいと思ったのですか?」 目の前の女が書類に目を落としながら俺に問う。 「いや、これからの世の中、プログラミングができれば職業選択の幅も広がると思って…」 「では何か目指す職業というのがあるのですか?」 うるせぇよ、お前に関係ねぇだろと内心思いつつ答える。 「いや、正直そこまで考えがあるのではないですがコンピューターを使う仕事はこれからどんどん増えてくるというので そういうスキルを身に着けることで職業選択の幅も広がると思って」 あ、語尾が同じことの繰り返しになってしまった。 女はそれには突っ込みを入れず、「うんうん」とうなづいてから、落としていた視線を上げて俺の目を直視する。  「確かにプログラミングというスキルは素晴らしい能力の一つです。しかしそれを身に着けるのは簡単なことではないんです。 研修期間は3か月です。その間投げ出すことができずちゃんと学ぶことができますか?スクールが始まった途端に『やっぱり思っていたのと違った』となってやめられてしまっては困るんですよ」 うるさいうるさいうるさい。  職場環境にどうしても我慢できずに退職したのが先月の事。 次のステップアップというより、とりあえず自分の時間を確保したいと思って、遭えて次の職場を決める前に退職した。 年齢的にも転職年齢が限界といわれる三十代半ばだったが、とりあえず失業手当をもらいながら食いつなげばいいと思っていた。  自己都合退職となるので失業保険の支給までは3か月後だ。 しかし、すぐにこれをもらえる方法がある。 ハローワークで募集している「職業訓練」に参加することだ。 案内を見ると、なるほどいろいろな授業がある。 ワードやエクセルを使えればいいなとか、旋盤技術を学ぶとか。 その中で俺が目を付けたのがプログラミングだ。 今プログラミングができる人が不足しており、ゆくゆくは個人で仕事を請け負うフリーランスでも、年収1000万が「簡単に」達成できる職業だと紹介されていた。 情報のソースはyoutubeだ。 ネットの記事を鵜呑みにするなんて、と思ったが少なくともスキルを身に着けることまではいいだろう、そう思って応募したのがこれだった。 「本当に将来自分がそっち方面の仕事をやっていく自信があるのか、もう一度考えてきてください」 たかだかハローワークのババアが何を偉そうに。 こっちは今までさんざんブラック企業で働いて税金を納めてきたんだ。 少しくらい人生の休日があってもいいだろ。 色々なところで税金の無駄遣いをしているんだ。俺に生活費くらい渡してもいいではないか。 自転車の前かごに入れたバッグの中で、書類が心なしか重たく感じた。
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