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俺の同期の家で
車を10分ほど走らせ、エンジンを止めた先は、ヨーロッバの建物に寄せたメゾネットタイプのアパートの前、イタリアが好きなこいつが借りそうな建物だ……メゾネットって……ことは……
「システム課の国宝級イケメンと同棲でも始めたのか?」
「ご名答♡ 今とても幸せなんだよねー♡」
タクシーから降り、鍵を開けた手を止めてまで、振り向いた顔は、デレデレしていて、今からでも自力でホテルを探したいぐらい気持ちの悪い顔に視線をそらす。
どうぞ。と招き入れられた玄関は、それほど広くはないが、リビングは、由貴が好きそうなインテリアで揃えられ、ムスクの香りが広がっている。
「和毅は実家に帰ってるから寛いでいいよ」
「いいのか? 俺を入れて……言っておくが、お前らの喧嘩に巻き込まれたくないからな」
「大丈夫じゃない? 和毅は僕と葛目の仲を知ってるから」
和毅とは、由貴の恋人で、システム化の国宝級イケメンの異名を持った男で、何故か由貴を落とす為に悪戦苦闘の日々というのを本人から聞いた事があったのを思い出す。
キャリーケースの持ち手を折りたたみ、扉近くに置いて、近くのソファーに座ろうとした所で、慌てて由貴に止められる。
「ダメダメ! ソファーは僕達の寛ぐ所だから座らないでよ」
「僕達ねぇー? 仲がよろしいことで」
ソファーに座ることを諦めた俺は、食卓の椅子を引き、そこに座るとコーヒーのいい匂いが鼻を掠める。
紅茶しか飲まなかった由貴が、焙煎したコーヒーを出してくるなんて、どんどん恋人に毒されていってるのが嫌ってくらいわかる……
背もたれに体を預けながら、部屋を見渡していると、違和感のあるタキシードを着た二体のくまのぬいぐるみと、その隣の写真立てに視線が止まった。
導かれるように腰を上げた俺は、手に持った写真立てに開いた口が塞がらない。
写真立てに入っている二枚の写真には、頬をつけ指ハートで幸せいっぱいの由貴とイケメンで、もう一枚の写真は白のウエディングドレスを着ている由貴の頬に、キスをするイケメンの姿。
「それ、可愛く撮れてるでしょ? コーヒー淹れたよ」
「お前! これ! けっ!結婚したのか?」
「そうなのよね〜」
そう言いながら、差し出した手の薬指には光る指輪とにやけた顔が、芸能人が結婚会見でみせるそれと一緒で、とても見てられない。
写真立てを元の位置に戻し、また椅子に腰を落とすと、由貴もその後に続く。
「ちょっと、おめでとうとか、そういう言葉が言えないの?」
「今更言われて嬉しいか?」
淹れたてのコーヒーは、口に持ってきた時点で高そうな匂いが鼻を掠め、口に含んだ瞬間、缶コーヒーとは違う味に頷く。
「あー、なるほど」
「なんだよ」
「悔しがってる! 先に男の恋人を作ったのは自分なのに、僕に先を起こされて結婚したから拗ねてる!」
図星をつかれて、拗ねてないと叫びたいが、付き合いの長い由貴に隠し事はできるわけもなければ、嘘を突き通せることもできない。
飲んでいたカップをゆっくり置き、覚悟を決めた俺は、腕を組み言葉を選びながら空気を変えた。
「お前さ、信じていた相手に裏切られたことってあるか?」
「与那原くんのこと? 何かあった?」
コーヒーのおつまみにと出してきたクッキーを頬張りながら、コーヒーカップに口をつけてた由貴が、俺の返しに何かを察したのか、前のめりになって聞く体制に入る。
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