俺の同期が悪魔化する

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俺の同期が悪魔化する

 何かあった? ありすぎてどこから話せばいいかわからず、思い出すのは、嫌な笑みで俺を見ていた灰田の顔。 「……灰田」 「灰田? 灰田って狼牙くんのこと?」 「あぁ……」  俺達三人は同期だから、由貴も灰田の事を知っていて、勿論、俺と灰田が犬猿の仲だということも周知している。  俺は、灰田と虎白が最近、仲がいいという事、懇親会での事、そこから虎白と喧嘩をして、恋が終わった事を由貴に告白した。 「終わりだ……こんな同性の恋愛に永遠なんてないんだよ……」 「ねぇ、ずっと聞きたかったんだけどさ、与那原くんの事、本当に忘れてたの?」  今、その話は関係ないだろと言いたかったが、また鉄槌を食らわされたくないのと、話が進まないので答えることにする。 「……忘れるわけないだろ? 初めて店を任された店舗だったし……それにアイツ、沖縄に帰る前、俺が選んだ服を着てどうですか? ってわざわざ見せに来たんだぜ?」  その光景はずっと忘れなくて、知らないふりをしたのは、恥ずかしさを隠すために、店長として別人を演じた。  虎白との思い出に、思わず笑みかこぼれる。 「虎白くんにもそうやって素直になったら?」 「できないから手を切られたんだろうが」 「僕に怒らないでよ」  別に怒ってねぇとそっぽを向いて失敗した。  違う!こいつを怒らしたらだめやろわし!  自分の浅はかさに、一度、深く吸った息をゆっくりと吐き、落ち着きを取り戻した後、由貴に謝り、話を続けさせた。 「プライドだけは高いんだから、本当の葛目はそんなんじゃないでしょ?」 「好きとは言った」 「だから? 当然でしょ? 何年恋人してるの?」  眉間にシワを寄せた由貴が頭を抱え、俺に言い放った言葉は、傷口をナイフで刺されたように深く刺さり、居心地の悪さから心を落ち着かせようと、取り出したタバコは、由貴に没収せれ、その手によって握りつぶされる。 「この家禁煙なの♡ で? どうするの? 二つの道しかないけどね……素直になって虎白くんと仲直りするか、崩したくないプライドのままお別れしちゃう?」 「……いい性格してるな」 「褒めないでよ〜気持ち悪いから……僕は、ただ、葛目に幸せになって欲しいだけだよ」  頬杖をついた由貴がにっこり笑い、その笑顔がまるで俺の答えを急かしてるようで、場が一瞬にして長い沈黙になった。  俺の側で笑い、かなさんどーって言いながら、俺に抱きつきキスをする虎白が居なくなり、俺の嫌いな灰田と楽しくシェァハウス。  俺は……それを見続けるのか?   そんなこと…… 「耐えられない」 「え?」 「アイツが! 虎白と灰田が俺の前を歩いて笑って帰るとか許せると思うか? 冗談じゃねぇ!」  どこまで嫌いなのよと、由貴が俺の想像力に腹を抱えて笑いだし、何故か恥ずかしくなった俺は、咳払いで空気を変え、そんな俺に、しょうがないな、と由貴が手を出す。 「本社提出の書類、ここまで来たけど体調不良で帰ったって言ってあげる」 「いや、でも社長とのミーティングが……」 「僕を誰だと思ってるの? そんなのどうにでもなるんだから、ただし、素直にならないと観光してますっていうからね」  最初の優しさはゆっくり消えていき、笑顔の圧力は、俺でも生唾を飲むほどの怖さで、そんな由貴と結婚して、側にいれる彼氏を、心の中で称えた。  引き寄せたキャリーケースを開け、書類をファイルごと渡そうとしたが、その手を一度止める。  何かが怪しい……こいつが俺にここまで優しくすることもおかしいし、俺の幸せを願ってる? 絶対にないだろ…… 「お前、何企んでる?」 「何が?」 「声が裏返ったな? 誰に! 何を! 言われた?」  前のめりになり、俺からの視線を外さないよう顔を近づけ俺は、当然、由貴が距離を置くと思っていたが、由貴は、勝ち誇った顔をしてゆっくり近づけてくる。  その差、数センチ。 「もし、僕が企んでて、葛目を幸せにしたくないなら、これを伝えてるけどね」  視線を外さない由貴が、口角をあげ、声を弾ませた言葉が続く。 「昨日、狼牙くんが虎白くんの異動願いを出したいってエリアマネージャーに要望したみたいよ? あらー葛目くん。大ピーンチ、虎白くんがCalmのお店に、ヘッドハンティングされちゃう♡」 「なっ!」 「なんでそれを? だって僕、狼牙くんと仲いいもの♡」  開いた口が塞がらない。  この言葉を体験する日が来るとは……思わなかった……  あの、クソ野郎が! このオカマと仲良くて! 更に虎白をヘッドハンティングだと? それも俺の許可なしに!  机に叩きつけたファイルを由貴に託し、急いで家を出ると、灰田を一発殴るため、急ぎ京都へと向かった。
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