憧れ

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「ライ!冒険者になったってことは仕事に出たらケガすることだってあるし、死ぬ可能性だってあるからな」  頷くと、ルイはバチンと俺の背中を思いっきり叩いた。 「いってぇっっっ!!」  騒ぐと、ルイに襟元を捻り上げられる。 「でも、冒険者になったなら絶対死ぬな!無理してレベルに合わない依頼は絶対受けちゃダメだからな!」 「は?俺もすぐにルイと同じC……」 「聞け!!」  珍しくルイに鋭く言われて口を噤んだ。 「無理してレベル上げるために難しい依頼をこなそうとするなって言ってるんだよ」  ドンと俺の胸に拳を当てて唇を噛むルイ。 「テオは助けてくれる。優しいから。……でも、それでテオがケガをしてみろ……」  ルイの手から力が抜けてダランと両腕が下に垂れ下がる。 「……テオのお腹に傷があるの知ってる?」  母さんが鍋を掻き混ぜていた手を止めてゆっくり口を開いた。  思い出すのは昼間見たテオの腹にあった大きな傷跡。 「僕が調子に乗ってBランクの依頼を引き受けたばっかりに……」  ギリッと歯が音を立てたのを聞いて、俺はゆっくりイスに座った。 「……Eランクで教会のコウモリ退治してろって?」  向いていないと判断されたようなもののEランク。  それが悔しくて……。  憧れの冒険者となった日。  俺はこの特別な日にすぐにでも依頼も受けて華々しくデビューしようと思っていた。  それなのにEランクは今、依頼さえなくてショックで打ちひしがれたのに。 「誰かがやらなきゃいけない仕事だ」  ルイの言葉に俺はただ項垂れるしかなかった。
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