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数日後の明け方のことです。シンデレラは普段とは違う町娘のような質素な服に身を包み、例の召使いを連れてお城の外にいました。
よくなついている栗毛の馬に乗って、召使いをもう一頭の馬に乗せ、私物や貴重品も持って、森の中を風のように駆けています。
「シンデレラ様、目的地にはまだ着かないのですか?」
馬のたてがみを掴んで必死に掴まりながら、召使いは息も絶え絶えに尋ねました。
「当然よ。私が住んでいた街まではまだまだ遠いもの。あと数時間は走らなくては」
「あと、数時間⁉」
シンデレラの言葉に、召使いは声を引きつらせました。
王子がいない間にお城を抜け出して、馬で継母や義妹たちの住んでいる場所に行きましょう。そう提案したのは、シンデレラでした。
──彼はもう、私のことなど好きではないのでしょうね。
彼女は年不相応に美しい顔を伏せながら、ため息をついて言いました。けれど、その後にこうも続けました。
──けれどあの人は、私が運命の人だと言ってくれた。私が落としたガラスの靴から偶然にも私を探し当てたとき、これが運命なのだと言って笑ってくれた。あのときの笑顔だけは、本物だったのだと思いたいの。
「たとえ過ぎ去った長い年月が、彼を変えてしまったのだとしても・・・・・・か」
「なにか言ったかしら?」
召使いが小さく呟くと、前方で馬を走らせていたシンデレラが振り向き、首を傾げました。
「いえ、なんでもありませんわ。シンデレラ様」
そう答えると召使いは、一層速度をあげた馬に振りほどかれぬよう、その背に強くしがみつきました。
昇り始めた陽の光が、二人を優しく照らし出していました。
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