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どぶのような悪臭が、鼻を突きました。泥と汚物とカビが混ざったような臭いに、後から入ってきた召使いは思わず口を押さえました。
一方でシンデレラは、顔をしかめることもなく平然として立っています。狭い家の入り口に、お城から逃げてきた王太子妃が凛と佇むその姿は、どこか滑稽にすら思えてくるほどでした。
さっきまで互いに喚き散らしていた三人の女たちは、ぽかんと口を開けてシンデレラを見つめています。
記憶にあるよりも幾年分か年をとった彼らに視線を投げかけ、シンデレラは呟きました。
「・・・・・・ただいまって、一応言っておくわ」
それだけ言うと彼女はさっさと家の奥に進み、慣れた手付きで床から箒を拾い上げました。軽く手ではたいてある程度の埃を落とし、蜘蛛の巣を払いのけると、これが当たり前なのだというふうな調子で床を掃き始めます。
「あんた、シンデレラね」
ようやく気づいたように、老婆が──継母がうなりました。らんらんとした獣のような眼を向ける彼女におののき、召使いは小さく喉の奥で悲鳴を上げました。
義妹の一人であるドリゼラが、咎めるような目つきで召使いを見ました。
「ええ、そうよ。帰ってきたとでも言っておこうかしら」
「なんのつもりよ。あんたのせいで私達の人生はめちゃくちゃよ!いったいなんなの?前妻が残していったただの小間使いかと思ってたら、綺麗な格好して舞踏会には来るし、王子様は奪っていくし・・・・・・今さら戻ってくるなんて。何がしたいのよ、王子様に捨てられでもした?」
「まさに今、そうなりかけてるわ」
もうひとりの義妹、アナスタシアが鼻息も荒く噛みつくと、シンデレラはあっさりとそれに応じました。これには三人も仰天したようで、一瞬固まった後、眉をひそめてシンデレラを睨みました。
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