序章

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序章

 それから二人は結婚し、末永く幸せに暮らしました。  めでたし、めでたし。  ────以上が、おとぎ話や童話といった物語の最後に添えられる定型文だ。  形は違えど、素晴らしい人徳をつみ高貴で決して奢らぬ好青年と主人公が結ばれて、以降永遠に幸福に暮らす。おとぎ話の中でも最頻出のパターンだろう。  いっそのこと、永遠の幸福理論とでも名付けてしまおうか。そう思ってしまうほどに、ありふれた物語の結末。  古今東西、汎ゆる童話や寓話、昔話や伝説において、その根本にあるのは勧善懲悪であり、善人である主人公が出会いに恵まれて最終的に幸せになるのがオチである。  だが、読者諸君は不思議に思ったことはないだろうか。結婚相手と出会い、婚約や挙式までに様々なトラブルに巻き込まれた主人公が、はたして、嫁いだ後も変わらぬ恒久の幸を得られるのかと。  はたまた、彼らが長い人生の内で心変わりすることなく、共に死ぬまで添い遂げられるのだろうか、と。  物語が終わり、最後の頁に「終わり」の三文字が浮かんだ後。もしもおとぎ話の主人公たちが、作り物でしかない想像上の人物ではなく、実在する存在だったのならば。  「ハッピーエンド」のその先には、まだまだ波乱が待ち構えているはずなのである。  これは、そんな彼らの「その先」を記した書冊だ。完結という結びの語句の向こう側にある、当人たちしか知り得ぬ秘密の事情。   「主人公」も「勧善懲悪」も「起承転結」もない現実の中で生き抜いた、それぞれの少女たちの物語だ。
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