いつもボーイッシュなあの子が、スカートを穿いてきた

1/1
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ
「ねえルミ、やっぱり変じゃない?」  サヤが、何度も私に聞いてくる。 「大丈夫だっての。ロングでしょ? ミニじゃないから、体型とか気にしなくていいじゃん」 「でも、なんか落ち着かなくて」  お尻や足をさすりながら、サヤは照れた。    サヤはいつも、ジーパンを穿いてくる。  その時はキリッとしていて、カッコイイ。   面接の時のリクルートスーツも、パンツタイプだった。 「でもサヤだって、高校まではいつもスカートだったでしょ?」 「学校だったら、制服の下に短パン履いてたもん。私服でソレをやると、モコってなっちゃうの」 「下にトレンカでもやれば?」 「やってるの! でもムリ!」  モジモジしながら、サヤは落ち着きがない。  動きもぎこちなくて、恥じらいのほうが勝っていた。    私はミニに慣れている。多少の視線なら気にしない。 「それタイトスカートでしょ? 風でブワってならないから大丈夫だって」 「でも、さっき自転車に乗ってた人が、後ろの金具にスカート引っ掛けてめくれたじゃん!」 「あれは、フレアスカートだったからだよ!」  ヒラヒラのスカートで自転車に乗っていては、いつかはああなるだろう。 「そんなにスカートが嫌いなら、なんで穿いてきた?」 「だって、もうすぐルミに見せられなくなるんだもん」  今日は、卒業旅行だ。この旅行が終わったら、サヤとは離ればなれになる。  私は、PC系の専門学校へ。サヤは、親戚の会社で働く。  スキルを身に着けたら、私もサヤの所で雇ってもらう予定だけど。 「だから、せめて苦手を克服して、わたしは大丈夫だって証明したいんだよ」 「その割には克服できていないけど?」 「これからするの!」  でもなあ。 「ちょっと並んでみ?」  私は、ショウウィンドウの前にサヤを立たせた。  サヤの隣に、私も並ぶ。 「どう? かっこいいじゃん」 「ルミにはかなわないよ。スタイルもいいし」 「でも、スカート穿いててもサヤは男前だよ」  私は正直、学校でもプライベートでも変わらない。  それは長所でもあるし、代り映えしないという欠点でもある。  でも、サヤは違う。  これから大人になって、サヤはどんどんきれいになっていく。  卒業しても子供っぽい、私と違って。  この後、サヤはどんな大人になるんだろう。  私は、それが楽しみでならない。 「並んで歩くたびに、嫉妬しちゃいそう」 「ミニが似合うルミのほうが、素敵だよ」 「そうかな?」 「わたしは、ルミのいいところいっぱい知ってるよ。ルミが気づいてないだけ」  お店のマネキンと、わたしのシルエットが、重なった。  マネキンは、ロングを着ている。 「私も、ロングにチャレンジしてみよっかな?」 「いいね! 付き合うよ!」    新しい扉を開くのは、サヤだけじゃない。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!