黒猫とわたし

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 ひと月、ふた月と経つごとに、 ベルが戻ってくるかもという一縷の望みは諦めに変わっていきました。もう悲しくなるだけなのでそれ以上は考えないように努めましたが、気持ちは簡単に割り切れるものではありません。その後も彼女は私の心に住み続けていました。  日中、一人で静かな部屋にいる時など、突然聞き慣れたあの声に呼ばれた気がしたり、視界の隅にシュッと黒いものが横切ったり、暗闇の中ふたつの瞳がチカッと光ったり・・・。今思うとあれは本当に私の罪の意識が作り出した幻だったのでしょうか。  またある時は明け方の浅い眠りの中で、私の首元に顔を埋めて眠る彼女の気配、体温や柔らかい被毛、お日様の匂い、チクチクするひげの感触を感じて、それがあまりに生々しかったものですから、思わず起き上がってその姿を探したほどでした。  でもなんにせよ、そういった幻は長く居座ることはありません。なぜなら人は毎日の生活の中で考えなくてはならない事がたくさんあって、それでいて脳の容量は決まっているからです。 私の場合もそうでした。幻覚を見る回数はだんだんと減っていって、 一年が過ぎる頃には完全に消え去っていたのです。
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