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『お願いします、どうか連れていってください。私はあなたの子になりたいのです・・・』
公園の生垣から飛び出してきたその子猫は、そう訴えながら必死に足にまとわりついてきます。私にその場から一歩も歩かせないつもりなのでしょうか。高校三年生の帰り道のことでした。
十一月の日暮れは早く、太陽は地平線に沈みかかっていました。長く伸びる私の影。それが完全に見えなくなれば公園に冷たい夜がやってきて、子猫はまた不安な一夜を過ごさなくてはならないのでしょう。
私が側にしゃがみこむと、透き通る宝石のような瞳が私を見ました。それは夕陽を反射して、私の心まで見通すようにキラキラと輝いています。とても綺麗な黒猫で、私は一目ですっかり心を奪われてしまいました。
「もう、しかたないわね・・・」
やがてポツリと言いました。それは猫だけでなく自分自身にも向けられた言葉です。
実を言いますと、その子猫が庇護者を求めていたのと同じくらいに、私もまた心の奥底で猫の伴侶を探し求めていたのです。幼い時からずっと一緒にいた愛猫が死んで、もうあんな悲しい思いはしたくない、二度と猫は飼うものかと固く誓ったはずなのですが・・・その決心は早くも二年で挫折してしまいました。
まるで綿のように軽いその子猫を壊れ物のように抱き上げる私を、夕陽が真っ赤に染めあげていました。こうして一度でも目を合わせて抱き上げてしまったからには、私のような性分の猫好きにはもう後戻りはできません。それを重々承知したうえで『もう、しかたないわね』と、何度も心の中で呟いていました。
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