1人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ
やがて高校大学を卒業し、社会人となった。
それでもあの日母に会ったことは昨日のことのように覚えていた。
そうこうしているうちに、久しぶりに祖父母の家に遊びに行くことになった。
何年ぶりだろうか。
祖父母は確実に年を取っていたが、高齢にもかかわらず元気なようだ。
昼食を食べた後、その辺を散歩しようと祖父母の家を出た。
田舎のおいしい空気。家の前で大きく伸びをしていると、女が歩いて来るのに気がついた。
中年の女性。一目でわかった。その女は母だった。思わず見ていると、女が気付く。
なにこの人、と言った顔で私を見る。
しばらく私を見ながら歩いていたが、やがて小走りに立ち去った。
私と同様に年を重ねてはいるが、あの女は間違いなく私の母だ。
しかし母は、私を息子だとは気づかなかった。
小学生から成人ではその見た目に変化が多いものの、実の息子に全く気付かないなんて。
私は思った。
やはりあの時、母は死んだのだと。
終
最初のコメントを投稿しよう!