第10話【チートと逆転と大泥棒】

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「バカな……おまえは光の巫女に選ばれた勇者だろ? 光属性のおまえが、なんで闇属性の盗賊のスキルを持っているんだ?」  コスナーは腑に落ちない。光の巫女の加護を受けるには、そもそもそれに相応しい者でなければならないはずだ。だからこそ人々はボリトールを信じ、その所業が明るみにでなかったともいえる。勇者のイメージと、現実のボリトールの所業とは、あまりにかけ離れていた。  ボリトールは、さっきまでとはまるで違い、勝ち誇ったような表情でコスナーを見返す。その眼は下等な生き物を蔑む色をたたえていた。 「ああ? ……言ってなかったかな? 俺は元・盗賊なんだよ」  なにぃーっ!    コスナーと、そして少し離れたところで見守っていたケートと竜たちの耳に、とんでもない真実が告げられた。 「魂に刻まれたスキルは、たとえ属性が変わっても残るんだよ。そのため、いったん光のリンクを切る必要があったがな……」  フハハハ、と小馬鹿にするように笑った。コスナーの強さの秘密を知り、それを己のものとしたならもうこちらのものだと言わんばかりに余裕を見せていた。タネのわかった手品ほど、つまらないものはない。これでもう勝負はついたも同然だった。 「つまり……ボリトールって……」  地竜の姐さんも、その事実に衝撃を受けていた。 「生まれながらの――根っからの泥棒じゃな」  風竜の爺さんがつぶやく。 「使えるかどうか心配だったが……盗賊最高峰スキル「強奪王者(スティールンキング)」──」  途端に饒舌になるボリトール。 「相手のスキルを一つだけ盗むことができるが、直接相手の体に触れなきゃ使えない上に、一生涯に一度しか使えない困りものの技だ。効率が悪すぎるんで封印していたが、よもやこんな形で役に立とうとは、なにが幸いするか、わからんもんだなぁ!」  切り札を奪われ、コスナーの顔が引き歪む。 「さあ、形勢逆転だ。ここからがショータイムだ。おまえの力、存分に試させてもらおうか。行くぞゴミムシ、骨のひと欠片も残さず粉々にしてやる」 「ううっ……」  コスナーは歯嚙みした。 「まずいぞ、コスナー!」  思わず風竜の爺さんは叫んでいた。いっしょに竜の合成スキルを完成させていたから、コスナーの手持ちのカードがどれくらいあるのかも承知していた。たった数日の間に、いくつもの必殺技を開発する余裕などなかった。だからそれを破られたとあっては勝ち目はなかった。  ボリトールが白旗を揚げた(フリをしていただけだったが)ときには、思わず「勝った」と勝利を確信したのだが、ぬか喜びもいいところであった。やつの狡猾さにもっと注意を払うべきだったと悔やまれた。 「複製倍化(ダブルトレース)!」  ボリトールが唱える。コスナーの全スキルが複写倍化され、ボリトールに備わった。 「随分な竜のスキルをもっているじゃあないか。複写してようやくわかったぞ、おまえが俺に立ち向かおうなどと考えるわけだ。──せっかくだ。おまえの体でいろいろ試させてもらおう。まずは火竜のスキル、炎極焼弾(マグマグナム)!」  強烈な炎がコスナーを焼く。火竜のスキルはコスナーも持っていたが、それで防御できる以上の攻撃でコスナーの身にダメージを与えた。 「ぐあああ!」  これまで魔法力をさんざん操ってきたボリトールは魔法に慣れていた。なんの訓練も必要なく、すぐに竜の力を発することができた。 「続いて氷竜のスキル、氷剣乱舞(ブリザーブレード)!」 「うわああ!」  強烈な低温攻撃は、氷竜のスキルでも防御しきれない。 「さらに雷竜スキル、雷槌斬撃(サンダーボルトスラッシュ)!」 「ぎゃああああ!」  雷に打たれ、黒煙を吹いて倒れこむコスナー。 「おいおい、まだ3つしか試せていないのに、もう瀕死かぁ? さっきまでの威勢のよさはどうした?」  ボリトールは呆れ気味に嘲笑する。 「──まあ、倍化されているからダメージも桁違いだがな」 「コスナーさんっ!」  ケートが叫んだ。ボリトールにとびかかっていきたいところだったが、あまりのパワーを前に、足がすくんで一歩も踏み出せない。  立て続けに攻撃を受けたコスナーは白目をむいてピクリとも動かない。  ボリトールはその髪の毛を無造作につかんで顔を引き上げる。  ──ぺっ!  侮蔑を込めて唾を吐きかけ、そのまま仰向けにひっくり返し、顔を踏みつけた。 「所詮、ゴミクズはゴミクズ。ウジ虫はウジ虫。俺の敵ではないということだ。それっ!」  そして、サッカーのシュートのように蹴り飛ばした。  勢いよく岩肌に激突し、地面に突っ伏すコスナーにはもう抵抗する力も残されていなかった。  光のオーラを身にまとうボリトールは余裕の表情でコスナーを見下ろす。 「遊びはもう終わりだ。そろそろ処刑の時間だな。こんな素晴らしいスキルを奪えたんだ……もう遠慮はいらん、心おきなくきさまを殺せる……ふっっフフフ……フハハ……」   口元から笑みがこぼれる。元の勇者に戻ったことで再び腰に佩いていた長剣を抜いた。刀身が青白く妖しく光っていた。氷のように冷たい光であり、なんらかの魔力を備えているに違いなかった。 「簡単には死なせんぞ。コスナー。さんざん俺をコケにしてきた報い、受けてもらう」  ボリトールの目が残酷そうに光った。盗賊の、他者に対する本性がむき出しになっていた。そこに慈悲はまったくなく、徹底的なサディズムは血も凍るほどである。 「こいつできさまの体を、指から一本一本切断していく。この刀は焔竜と瓦斯竜のスキルを合成した魔素で覆っている。こいつで切られると、切断面が即座に炭化して血が出ない。代わりに痛さはすさまじい、気が狂わんばかりのシロモノだろうがな……」  狂気の笑みを浮かべながら左手を伸ばし、コスナーの頭をつかんだ。 「まずは耳からいこうか……」  耳にボリトールの剣がかかった。 【第11話につづく】 7d98ab61-c6e2-4061-8949-36f2160ec09f
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