第1話【勇者パーティと選ばれた村人と、あと竜とかエルフとか】

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第1話【勇者パーティと選ばれた村人と、あと竜とかエルフとか】

 現れたその怪物の姿は醜悪で、見るからに邪悪に満ちていた。人の背丈の三倍はありそうな長身で、耳まで裂けた口には鋭い牙がのぞき、太い四肢の先には牛をも両断しそうな鋭利な鉤爪が月明かりに浮かび上がっていた。  その特徴だけでもかなり強そうなモンスターなのだが、さらにそいつはゾンビであった。あちこちが腐敗して強烈な悪臭を放ちながらも、多少の傷を受けても倒れないのが厄介だった。 「だめだ、歯が立たない……!」  それを倒そうと村じゅうの男たちが手に手に得物をとって立ち向かうのだが、太刀打ちできなかった。怪物が振り回す鉤爪によってすでに何人もが傷を受けて戦えなくなっていた。 「くそぅ……、このままだと全員やられてしまう……」 「なにか勝てる方法はないのか……」 「今から教会に助けを求めに行っても、勇者が到着するころには村は全滅しているぞ……」  男たちは絶望にさいなまれ、うなだれるしかなかった。 「こうなったら家の中に閉じこもるしかない」 「しかしそれではいつか干上がってしまうぞ」 「そこをどけぇい!」  そのとき、朗々と響き渡る声がした。 何者かと振り向けば、そこへやって来たのは五人の見知らぬ男女……。 「誰だ、おまえら……」 「ど素人はひっこんでいろ」  先頭を歩く男が腰に佩いた鞘から剣を抜く。 「ここは、俺たち勇者にまかせろ」 「なぬっ、勇者だと?」  確かにその出で立ちは勇者のパーティといってもよかった。しかし聖光エポルプ教会へ要請もしていない。いったいなぜ、どこから現れたのか……。  が、勇者が来てくれたというその事実が、そんな疑問を差し挟ませなかった。自分たちが束になってもかなわなかった怪物にどう対するか、その行方に注目が集まった。 「ふん、なるほどな……」  その怪物の前に立ちふさがりほくそ笑む男は、勇者として世界最高ランクとしてその名を馳せるボリトールであった。 「おまえら、手出しは無用だ。この程度の怪物(やつ)なら俺一人でじゅうぶんだ」  後ろを振り返り、仲間の四人の男女に向かって言った。自信があるというのではなく、当たり前のことを言っている――そんな言い草だった。 「だろうな」  長剣を持つ大柄な格闘士がうなずく。名をガメルといった。 「うむ、まかせた」  眼鏡をかけた神経質そうな僧侶がそそくさと引き下がった。名をマンビークという。 「じゃあ、あたしもここは高みの見物といくわ。もっとも、瞬殺でしょうけど」  マンビークとともに後退した、マントを羽織った紫髪の女魔導士ヒタクル。 「軽くがんばってねー」  そして、軽口をたたき、ボリトールが負けるとは一ミリも思っていない、フードをかぶった女は召喚士カスメトールといった。 「おうよ」  と、背後に手を振ったボリトールは、剣を構える。 「聖光竜巻(ホーリートルネード)!」  その剣が妖しく光った。  ガァァァァ  口から腐臭を放ちながら、怪物が吠える。と、同時に――。  ボリトールの姿が目にも止まらぬ速さで動いた。怪物の周囲に残像だけがかすかに視認できるほどの動きについていけない。そして攻撃に移ろうと動いたときには、すでにその体はバラバラに切断されていた。  ここまで細かく切り刻まれては、さすがのゾンビも動けない。そのまま朽ちていくのみ……。 「ふっ……所詮、こんなものか……」  元の位置に戻って剣を鞘に収めるボリトールは汗一つかいていない。 「おお、素晴らしいです、勇者様!」  そこへ感嘆の声をあげる者がいた。ミッカタ村の村長であった。
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