化粧人

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 鬼の手足に鈴をつける。今、鬼の音を縛っているのでこうすることで完全に動けないということだった。少女とは思えない力でスミは鬼を担ぐと、そのまま家を後にした。人目のつかないところを歩きながら、スミは唐突に喋り始める。 「鬼をどうするのか知らないでしょう。実は私も知らないのです。それを教えてもらう前に父様は亡くなってしまいましたから」  母が亡くなり、父は母に化粧を施すつもりだった。言うことを聞かない反抗ばかりする息子に、母の死に化粧くらい見ろと初めて化粧の施しを見せたのだ。 「あの時私は外で待っていました。だからあなたが音を立てて母様を起こしてしまったのを知っています」  びくりと鬼が体を震わせる。チリン、と鈴が鳴ってしまい音の鳴った右腕がボキリと勝手に折れた。 「戸を閉めたのはあなただったから、あなたは自分だけ逃げ出すことができた。あの時開いた戸の向こう側に見えた母様は、鬼になっていました」  いつも優しく笑っていた母が文字通り鬼の形相だった。恐怖で体が動かなくなってしまった。 「父様は、自分も逃げることができたはずなのに自ら扉を閉めました。そして絶対に開けなかった」  一目散に逃げだした兄はそこに妹がいたことを知らなかった。妹はすべてを見ていたのだ。 「生きながら食われているのに、父様は私を守るために絶対に戸を開けなかった。最後の力を振り絞って私にこう叫んだのです」  燃やせぇ、スミ―― 「私は泣きながら家に火をつけました。父様も、鬼となった母様も生きながら焼かれて死んだのです。二人の悲鳴が今も耳に焼き付いています」  誰もいないところにやってくると地面に向かって鬼を放り投げる。全身の鈴が鳴り全身が折れた。口を大きく開けて苦しむ鬼をしり目に火打石を使って蝋燭に火をつける。 「鬼をどうするのか聞いたことがなかったのですが、父様の最後の言葉から思うに燃やしてしまうのが良いのでしょう。あの時、私の名を呼んで燃やせと言っているのかと思っていましたが」  涙を流している鬼はパクパクと口を動かす。命乞いをしているらしい。 「炭になるまで燃やせ、と言おうとしていたのでしょうね」  イヤイヤをするように首を振る鬼を見下ろすと蝋燭を投げた。乾いた布はめらめらと燃え始め、鬼の体を焼いて行く。  それをスミは見つめ続けた。木が燃えているわけではないのでぱちぱちという音すらしない。ただひたすらに静かに燃え続ける。
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